<振れ幅を拡げるために、たとえば『With You』>
月船 平本さんの『With You』(2010年作のピアノ曲)のことを話してもいいですか。
震災後、実家に帰っていたとき、この曲を初めて聴いたんだけど、震災の影響でいろんな感情に振り回されていたそのときにこれを聴いて、思いも寄らず、涙がたくさん出ました。
涙の理由が自分でも全然わからないほどで、でも、冒頭の話に戻りますが、これがわかりやすい曲だったら、多分そんなに泣かなかったんだと思う。本当に衝撃を受けた曲でした。
平本 『With You』は、スターダンサーズ・バレエ団に提供した曲の、もとのスケッチのような曲です。構成を考えながら曲を作るやり方をそれまでずっと続けてきてたんですが、これを作ったときは、そういうやり方ではなく、単純なメロディを何回も繰り返すことで、ほっとさせたり、愛おしさが心のなかに生まれるようにすることができるんじゃないかと思ったんです。
ひとつのメロディだけを、繰り返すこと、音程を少し変えること、強弱をつけることで、淡々と響かせ、聴く人の気持ちに寄り添う音楽にしたかった。
月船 聴いたとき、まさに、愛おしい気持ちにさせられました。震災によって愛おしい物が失われていくという喪失感と連動もしていたかもしれない。
平本 こういう曲を作ったのは初めてです。間奏もなければ前奏もない、始まりと終わりが一致している曲。
人の日常的なあたりまえの動作を象徴的に表現したいという意図があって単調なメロディを追求していて。それはつまり、普段のあなたのそばにいるということと同じ意味なのではないかと思って、『With You』というタイトルにしたんです。淡々と繰り返すメロディを聴くことで生まれ出る気持ちもあるのではないかと思って。
誰かと一緒にいたいという気持ちって、単純で、でもだからこそいいですよね。
月船 本当にそう!
平本 次のアルバムには『With You』を入れるつもりです。そこに『digi+KISHIN』のために作った曲も加えて、メロディ系のアルバムに仕上げようと考えてるんです。『TOKYO nude』とは真反対のものを一枚挟んで、また戻って来ようかと。
次は多分、歌も入るし、チェロも入るし・・・、優しい感じの構成になります(笑)
月船 『metro』も、次は大きい劇場だけど、そのあとまた小屋に戻ります。小屋→劇場→小屋というふうに、振り子の動きがすごく重要。
平本 どっちかの人にはなりたくないですよね。こっちを突き詰めたら、次は反対のところに行って深く探求する。そうやって振れ幅を大きくするのが理想ですね。
(構成/間坂元昭)
月船さらら Sarara Tsukifune
75年5月8日滋賀県出身。96年宝塚歌劇団に入団。『ベルサイユのばら2001 フェルゼン編』の新人公演で主役を務め、男役トップ候補生として注目されるが、2005年に退団。その後、映画、舞台等、幅広く活躍。主な出演作品『さくらん』(監督:蜷川実花)、『つむじ風食堂の夜』(監督:篠原哲雄)、『MIDSUMMER CAROL-ガマ王子VSザリガニ魔人-』(演出:G2)『ロックンロール』(演出:栗山民也)。2009年に自ら演劇ユニットmetroを旗揚げし定期的に公演を行っている。6月9日〜『NOISES OFF』(あうるすぽっと)10月6日〜『引き際』(赤坂RED THEATER)の出演が控えている。また、『世界で一番美しい夜』(監督:天願大介)で第30回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞している。
対談終了後、左から平本、月船さらら、間坂元昭
撮影:moco http://www.moco-photo.com/
今回の撮影では吉祥寺の美味しいお酒とお料理のお店「にほん酒や」さんに多大なるご協力を頂きました。
ありがとうございました。
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