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東京を巡る対談 月一更新

村上祐資(極地建築研究者)× 平本正宏 対談 月より遠い南極〜薄曇りの極夜に音は潜んで

<瞬時にわかる音の地域差>

平本 実はいま、村上さんの行く先々で環境音を収録してきてもらおうと相談しているんですよね。これまで僕は、自分でレコーディングした音以外の音を作曲時に一切使わなくて、そうしないと純粋な環境音以外の要素がストーリー性を持ってしまうと思ってたからなんだけど、今度は逆に、村上さんが録ってきた音をぱっと聴いたときに自分に変化が起こるかどうか試したいと考えてるんです。

村上 こないだは予期せぬ病気で急遽ヒマラヤから帰国したので、ちゃんとレコーディングできなくて……。意識朦朧としながらも、少しは録ってきましたが。

平本 街の音がありましたね。

村上 ネパールの首都カトマンズと、シシャパンマから下山してきて一番初めにある村、ニエラムで録りました。人が定住し、食べるものや、子をその地で育てて、という意味では、標高4000メートルにあるニエラムはほとんど人間の定住限界の地にある村です。

平本 そのニエラムの食堂の音が、からっとした空気と独特の騒がしさを含んでいて、東京で聴けないものだと瞬間的に感じました。


ニエラムの村(撮影:村上祐資)

村上 録ったのは午後3時ぐらいだったかな、ネパール料理を出すカフェレストランのようなところです。ウエイターが客と一緒にご飯を食べ、近所の人たちがテーブルのひとつを占拠しテレビドラマを見ながら熱狂している情景で。

平本 その音を聴いて、東京との空気感の違いが一発でわかったのが面白かったです。ほんと、不思議だよなぁ。

村上 いままでに、東京以外の地域・国の音を収録したことはありますか。

平本 自分以外の人が録ってきた音を聞いたことは幾度かあります。そのときも差異を感じました。スペインのフランシスコ・ロペスというサウンド・アーティストも、世界中の環境音を収集して電子音に混ぜることを実践してるんですが、彼の音楽からもそういう地域差を感じます。そこに響いている人の声や車の音を超えた先に、その場所が持つ空気感が厳として存在している気がします。

村上 自分で録りには行かない?

平本 行きたいですねぇ、でも村上さんの行く場所は極地なんで(笑)。僕はパリとかの街でいいです(笑)。

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