〈常に音楽が流れている日常〉
平本 スケートと音楽は切っても切れない関係にあると思います。音楽の編集について、使用楽曲のここからここまでを使って、ここに繋げて、という尺やタイミングの指示は無良さんもそのアシスタントの先生にされるのでしょうか?
無良 場合によりますけど、全然思い浮かばないときは振付師に任せていますし、楽曲のここのパートは絶対に使いたいという指示は僕がしています。
平本 全部お一人でされてるというよりは振付師と話し合いをしながら進めていくんですね。
無良 そうですね。振付師がイメージを作り、それについて案を出したり、この部分の体の動きはこうした方がいいという指示を僕やコーチがしていく、それに音楽が合うように編集する、という感じです。そして実際にスケートをしてみることで、ここの音が足りないなどの、課題が見つかり、練習に練習を重ねていきます。実際に練習を続けていくと、だんだん滑っている時の動きに余裕が出てくるので、余ってしまった音楽の部分は違う動きで使ったり、編集し直したりして、作り上げていきます。
平本 なるほど。スケートをするときの音楽は最初の編集が終わったら完成というわけではないんですね。調整を続けながら作品を完成させていくということは、普段から音楽と踊りの調整の作業は多いものなんですね。
日常では音楽に対してどのように接していますか?
昔からフィギュアをされているので、音楽とは密に接しているかと思われますし、スケートで流す音楽を何回も聴きこんで練習をされていると思いますが、それで音楽が嫌になるようなことはありますか?
無良 嫌いにはならないですね。一日家にいることがあるとき、よほど見たい番組やドラマがない限りはテレビは見ないでずっと音楽を聴いています。次はこの音楽のジャンルで踊ってみたいと思って音楽を聴くのですが、今はSpotifyがあるのでずっとランダムにそのジャンルの曲を聴くことができるんです。昔であればそのジャンルのCDを買って聴くという流れでしたが、今は形態が変わってきているため、自分が探していた曲が見つけやすくなってきているんですよね。いいなと思った曲はプレイリストに落とし込んで、この曲にはこんな振り付けが合うのかな、ってイメージをしています。移動するときもイヤホンで音楽を聴いていますし、車で移動するときも音楽を流しています。基本的に常にどこかしらで音楽が鳴っているという状態ですね。
平本 本当に音楽がお好きなんですね。
無良 そうですね。その時々の自分のテンションによって音楽のジャンルも変わっていきます。多分無音の状態はほとんど無いんじゃないかな(笑)。寝ているときも音楽がかかりっぱなしの時があるんですよ。
平本 怖い夢を見たりとかしないんですか?(笑)
無良 全然しないです(笑)。
平本 そうですか。夢を見ているときって耳に入る音によって夢が左右されると聞いたことがあります。だから印象的な音を聴きながら寝ると夢に影響したり、夢の中でも流れてきたり、僕もそういう体験何度かあります。
無良 実は、基本的に夢見ないんですよね(笑)。見ているんじゃないかなとは思うんですけど、よほど嫌な夢じゃない限りは覚えていないんですよ。
平本 ははは(笑)。熟睡タイプなんですかね、無良さんは。
僕は音楽を作ることが仕事なので、音楽に接していなくても日常のほとんどのことが音楽に変換されるんですよ。本を読んでいるときや絵画を見ているときも、言葉のフレーズからも音楽を連想したり、映画やテレビは音が鳴りますから、流れるBGMをいつの間にか考察していたり。もはや音楽に取り憑かれていると言っても過言では無いくらい(笑)
無良 ははは。
平本 この状態は、もしかしたら普通の人たちのように純粋に音楽を楽しめてはいないのかなと思うんです。もちろん、この曲すげー!とテンション上がるときはありますが、そのテンションが起きると同時に脳内で冷静な分析が始まるんです(笑)いいと思った曲はすぐに解析します。
無良 僕は音楽から離れられない、という感じはないんですよね。例えば自分がこの音だったらこの振り付けがいいのかな、こういう曲だと意外と滑りやすいのかなということはもちろん考えるんですけど、お酒を飲みながらゆっくりしたいときはゆったりとしたジャズを流したりとかしますし、自分のテンションを上げたいときにはクラブ系の音楽、EDMをかけたりなどしています。
平本 先程色々な種類のイヤホンをお持ちということを聞きましたが、使い分けたりとかされているのでしょうか?
無良さんも所有されてイヤホンのサンプル
無良 現在イヤホンは6種類持って出かけます。遠征で全て持っていく理由は、ジャズであればこのイヤホン、EDMであればこっちのイヤホンというように聴くものによって変えたりしています。
平本 イヤホンのコーナーをご一緒している時に、このイヤホンをつけていた時に上手く滑れたからこのイヤホンがいいというジンクスもあるとお聞きしました。
無良 そうですね。試合当日どれだけスムースに物事がうまく進むかということを気にするんですよ。