平本 謝さんは曲を聴く事でリラックスしながら勉強できるわけですよね。
謝 そうですね。楽しいですよ。ずっと詰め碁だけだと、分からないとこだと詰まっちゃうんですよね。そういう時に音楽があると、より効果があるような気がしますね。ずっとやっていると眠くなったりしますので、音楽聴いていると、好きな事を同時に出来る。
平本 好きな音楽を聴いて、好きな囲碁をして。
謝 そうですね、たまにテレビをつけながら、音楽を流している事もありますし。
平本 じゃあ日々の生活の中に音楽が浸透しているんですね。
謝 はい、毎日聴いています。
平本 音楽家としては嬉しいですね。音楽家は音楽を作りますが、そのできた曲をどう聞くかはリスナーの自由じゃないですか。移動するときにイヤホンで聴いてもいいし、車の中で聴いてもいいし、友人達と食事をしながら聴いてもいいし、家で1人でリラックスして聴いてもいいし。自分にあった楽しみ方をしてくれて、それで楽しい気持ちになれたり、気分転換できたり、仕事がはかどったりしてくれたらいいなと一音楽家としてよく思っています。
謝さんは囲碁棋士をお仕事とされていますが、1日の生活というのはどういう感じなのでしょうか?毎日対局があるわけではないんですよね。
謝 そうですね、対局は大体週に1回で木曜日ですね。曜日もほぼ決まっています。週に1回あれば、結構勝っている証拠なんですね。私は今年の1月から今まではほぼ毎週のように対局がありました。たまに1週間に2、3局のときもありますが、そういう時は結構疲れますね。対局によって持ち時間も変わります。普段の対局だと3時間ですね。
平本 1人の棋士が3時間使えるわけですね。
謝 はい。相手と合わせて6時間。で、その時間を使い切ってから1分の秒読みがありまして、1分以内に打てばいくらでも延ばせるんですよ。60秒の中で打っていれば、時間切れにはならないので。それで2、3時間は延びて、朝10時から夜の6時ぐらいまで打つのが普通なんですね。だから、1週間に何局もあるときは大変なんです。
平本 そうですよね。朝10時から夜6時というと8時間くらい、しかもその間はずっと考えているんですよね。すごいですね。
謝 今は対局が無いときは研究会に参加しています。例えば、月、火が研究会で、木曜日は対局が無くても、棋院には行きます。
平本 そうすると、別の人が対局していたりするんですよね。
謝 はい。それで勉強をしたりとか、検討したりとか。
平本 木曜日は対局が無い人は皆来ているんですか?
謝 強制ではないです。私もたまにではありますけど予定があったりするので。でも最近は大体行っています。
平本 そうすると、1週間のうちで囲碁に費やす時間は結構なものになりますよね。
謝 棋士っていうのは基本的に自由なんですね。全て自分次第なんです。
平本 それこそ対局と決められた日に行きさえすれば、あとはどこにいても、何をしていても自由なんですね?
謝 はい。だから毎日休みと言ってもいいし、全く休みが無いとも言えます。家にいるときも勉強しているので、やっぱり休みではないですよね。結局囲碁を離れることは無いかなと思うんです。常に考えているので。
今携帯でもすぐ対局が観れるようになっているんです。昨日は対局日だったんですけど、大体重要なリーグ戦や上の先生の対局はネットで中継しています。あと世界戦はほぼリアルタイムでネットで観られるようになっています。だから、移動中にちょっと観たりとか、家にいる時に観たりとか、あとは今みたいにカフェにいる時にちょっと観たりとか。だから、囲碁から完全に外れることは無いんです。
平本 そういうときは、予定が無くカフェでのんびりしているときでも、携帯で対局の中継を見れば、頭が完全に囲碁モードになっちゃうのですか?
謝 そうですね。例えば、棋士仲間とディズニーランドとかもたまに行ったりするんですけど、「そういえば○○さんが打っているよね」って話になって、アトラクションの待ち時間に携帯で中継を観たりとか。ディズニーランドに限らず、どこでもですね
平本 その光景は結構面白いかもしれませんね(笑)。でも本当に、習慣というか意識しないでも脳が切り替わるようになっているんですね。
作曲家もそういうところあるんです。ただ街中を歩いているときに、ふと頭の中にメロディや曲の断片が浮かんできてそこから急に作曲モードに切り替わったり、カフェで流れている音楽が気になって、その音楽の構造を分析し出したり。もう意識しないで勝手に切り替わっちゃうんです、同じように。僕の場合は、本屋で立ち読みをしているときに、突如作曲のことを考えることが多いですね。どうやら文字の情報が刺激を与えるみたいです。
謝 そうなんですね。同じですね。私も気になるんです。重要なタイトル戦はもちろん、リーグ戦も気になるんですよね。あの対局はその後はどうなっているんだろうとか。
平本 その気になるというのは、専門的になるかもしれなませんが、対局している人がどういう手を打つのかとか、対局がどういう流れで進むかとかですか?
謝 全部気になるんです。もちろん結果も気になりますし。基本棋士同士って皆仲がいいんですよね。いま参加している研究会というのは、棋士が数人集まって皆で研究しているので、その研究会で一緒の棋士の結果も気になりますし、あと勝ち上がって行くと自分と対戦する可能性もありますので。対局の内容ももちろん気になります。囲碁というのは4千年から5千年くらいの歴史があるのですが、全く同じ内容の対局は一個も無いんですよ。だから対局があるということは、常に新しいモノが観れるということなんです。そういう意味でも気になる。
平本 その長い間同じ対局が存在しないというのはすごいですね。それは気になりますね。