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東京を巡る対談 月一更新

駒井知会(弁護士)×平本正宏 対談 人の人生を変えていく為の難民支援

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<生命と身体の自由を脅かされる危険がないと日本では難民認定がおりない>

平本 そうでしたか。日本で難民認定される人達は、どういう条件で認められているのですか?

駒井 そうですね。いまの日本で「難民認定」されている人たちは、他の難民条約の締約国に比べれば、びっくりするほど狭い範囲の人たちです。たとえば、自分の国でよほど反政府活動を活発にやっていて、実際に逮捕されて拷問を受けたり、そこまでいかなくてもあと一歩で逮捕されるところだったり、暗殺される高い危険があるといったように、明確に、迫害主体から攻撃対象になった人などに限られてしまっています。

個人的に公機関等にターゲティングでもされていなきゃ、難民として認めないという場合があまりにも多いのです。

平本 その点を基準にして判断すると、日本の国にとってメリットになったり、逃げてきた国のデメリットになったりしますか?

駒井 日本は、「難民条約」「難民議定書」に加入して、条約で定められた「難民」を保護する約束をしているのですから、自分だけ「難民」の定義を限定して難民認定数を減らすのではなく、国際条約の定めに従って、迫害から逃げてきた人達、迫害を受ける恐怖がある人達には難民認定をするべきだと思います。それなのに、日本の迫害についての定義が、国際スタンダードから遥かに外れているんです。たとえば多くの場合、生命、身体の自由に侵害があるようでなければ迫害として認められないんです。そうなると、一例ですが、政治的な活動を行ったことによって職を奪われた人がいても、生命の危険までは冒されていないでしょう、ということで認められないということになってしまうのです。

平本 なるほど。生命、身体の危険が基準となると、相当大変な目に遭わないと認められないわけですね。

駒井 そういうことです。でも、生命・身体の危険から逃げてきた人たちでさえ、日本で難民認定されることは、容易なことではありません。たくさんの問題の中に、たとえば、信憑性評価の問題というのがあります。

難民の人達がどれだけ危ないかを、本人達が持っている何らかの証拠をもとに判断するのですが、迫害の恐怖から必死に逃げてくる人達が、たとえば、反政府の主張を行っている野党の党員証とか、政府に抗議するスローガンの入っているパンフレットなどの証拠をスーツケースに入れて逃げていたら、どこで見つかるかも分かりませんし、却って危ないので、日本で難民認定申請を行う時点では、自分が難民である証拠なんて持ってない人が少なくないんです。たまたま、後から親族に証拠を送ってもらえた人とか、服やスーツケースの二重底の底に証拠を隠して持ち出すことが出来る人もいますが、そういうケースは限られていますからね。そうすると、「私は難民です」と証明するためのメインの証拠は、難民認定申請者自身の供述しかないということが、往々にしてあるわけです。ところが、この供述についても、恐怖の逃亡生活を経て記憶が混乱したり、あまりの恐怖体験をなかなか話せない人もいますし、まして通訳を通じての対話ですから正確に意図が伝わらないこともあります。それなのに、この国では、何度か行われるインタビューの中で、ほんの少しでも違うことを言ってしまえば、「嘘つき」という烙印を押されてしまうわけです。

平本 審査が本当に厳しいですね。

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駒井 とてもとても、厳しいです。一つ例を挙げさせて頂くと(プライバシーの問題があるので、少し事案を変えてあります)、夫が、ある独裁国家で反政府活動を盛んにやっていた女性で、ある日、帰宅したら、夫が虫の息で床に倒れていました。この事件の後、彼女の夫は亡くなって、彼女だけが日本に逃げてきました。日本の入管が行った最初のインタビューで、彼女は、「倒れていた夫は顔をひどく殴られて腫れており、倒れたまま『逃げろ』と言ってきたので、私は夢中でその場を逃げました、と言いました。そして後日のインタビューでは、彼女はこう言いました。倒れていた夫は、銃で撃たれた脚の傷から血を流している状態でしたが、私に逃げろと言ったので私は逃げたと。3回目のインタビューでは、夫は顔をひどく殴られていただけでなく、銃傷もあって、倒れたまま私に逃げろと言ったので逃げました、4回目のインタビューでは、倒れていた夫は、殴られていて、なおかつ銃で撃たれて血が流れていた状態で、私に逃げろと言った、だから逃げたのだと答えました。ここまでの彼女の4回の供述には、矛盾がありません。それなのに、訴訟では、彼女のこれらの供述には一貫性が無いと言われてしまいました。

最初から、夫の様子を全部説明しなかったことが問題だったというのです。しかし、彼女は、最初のインタビューの時、体調を崩して、倒れる寸前という状態でした。おまけに彼女は日本語がしゃべれない上に、通訳は、言葉の分かりにくい電話通訳だったというのです。まして、愛する家族を最も残酷な形で突然失い、身も心もボロボロになっている犯罪被害者の遺族が、体調を崩して言葉もうまく伝わらない状況で、最初から何もかも話せって、もう、素人に100回宙返りを打てということより難しいと思います。そんな悪条件の中、彼女は、超人的な精神力と聡明さを以て、「矛盾のない」供述を行いました。それなのに、日本の裁判官は、彼女が言っていることに一貫性が無いと評価をしてしまいました。

これは、一例に過ぎませんが、ここまで高いハードルなので、乗り越えて認定されるのは1000人のうち僅か5~6人程度になるわけです。もし、私が彼女の立場だったら、冷静にすべてを話すなんて、5回インタビューを受けても、まず無理ですね。

平本 ここまで厳しいと一貫性を満たすというのは難しいですね。

駒井 そもそも難民認定申請者の殆どは、国際法の知識はありませんし、自分が、これまでのつらい人生体験の中から、いったい何を話せば難民として認めてもらえるかも分からないわけですから。また、中には、祖国で散々自分たちを迫害してきた官憲を、日本に来ても信じることが出来ない人もいます。また、悲惨な迫害体験を受けたときのことを話せと言われても、何年も経ってしまうと記憶も曖昧になってしまうので、そういうときは、そこまで細かいところを問われても分からない場合も当然ありますよ。まして、たとえば拷問や強姦や、家族を目の前で殺される体験など、心の平静を保つために、心の奥底のいちばん深いところに封じ込めることでようやく生き延びることができる場合だってあるんです。それを、枝葉末節も含めて細かく何もかも思い出せ、というのは、あまりに無理が多い。

さっき、「何年も経ってしまうと」というお話をしましたが、基本的な認定の流れというのは、入管に対してまず難民認定申請をやって、そこで駄目だったら審査請求(従前「異議」と言われていました)を申し立てて、それも行政手続の中で決定されます。これだけの過程で、4、5年かかることが珍しくありません。

平本 そんなにかかってしまうんですか!

駒井 最初の一次審査だけで1年以上かかるケースが多く見られます。難民認定申請者の方に、「私が難民認定されるまでどの位かかるか」と聞かれて、最初の認定審査の結果が出るまで、おそらく半年や1年以上はかかり、次の審査も含めれば4、5年かかるかもしれませんと答えると、私が怒鳴られてしまうことがあります。このペースが、信じられないのも無理はないと思います。だって本当に、信じられないでしょ?

平本 厳しいですね。でもそれが今の日本の現状なんでしょうね。

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