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東京を巡る対談 月一更新

上田岳弘(作家)×平本正宏 対談 喜びと悲しみの表現面積


上田岳弘(作家)×平本正宏 対談

収録日:2014年5月12日

収録地:夢の島公園

対談場所:東京夢の島マリーナ マリンセンター

撮影:moco

<リミッターをはずして好きなものを書いてみる>

平本 今回は念願叶っての対談という感じです。上田さんの処女作で新潮新人賞を受賞された『太陽』を今年のはじめに拝読させて頂き、一気にその世界観の虜になりまして、いつかお話したいと思っていました。こんなに早くお会いできたこと、とても嬉しく思います。

最初の1、2ページを読んだときに「これはすごいぞ!」となり、すぐ購入して、いつも行くカフェに持っていって心を落ち着けてじっくり読んだ記憶があります。それぞれの登場人物に焦点を当てながら、彼らが認知することの無い何世代もあとの子孫が物語に関係していくその構造、人類が生きていくことがとても大きな視点で書かれていながら、最後の最後にそれらが別の次元に昇華されてしまう。こんな壮大な世界観を、文学作品を作る人が日本にいるんだと驚きました。

上田 ありがとうございます。恐縮です(笑)。

平本 読んでて本当に楽しかったんです。どうなるかわからない展開と、その世界の大きさに刺激を受けました。ちょうど今度リリースのアルバムの作曲をし始めた時期だったので、影響も受けました。

上田 それは嬉しいです。

平本 是非お聞きしたいのですが、この作品を作るまでの経緯はどういうものなのでしょうか。


上田岳弘『太陽』掲載の新潮2013年11月号

上田 『太陽』を書いている時は、好きなものを書こうと。文学の歴史とか把握してないわけじゃないと思うんですが、ある程度いろんなものを読んできたし、一応知ってはいるつもりなんですけど、それらを踏まえた上で本当に自分が書きたいもの、気になることを書く。人から評価されるものを書くことや、評価してもらうということ自体を度外視して、書きたいものを書き続けたらどうなるのかなというのをやってみて、今回の作品となりました。そうなった場合にタイトルの印象は、ぱっと見として壮大さがありますよね。「太陽?今更太陽について語ることあるの?」みたいな。

平本 色々出てきますよね。過去の神話とか。

上田 当時好きなだけ書いて、「太陽」という題でそのまま表に出すとなった時にすごくしっくりきたんですよ。

平本 そうなんですか。タイトルの「太陽」というのは、一番最初に出たんですか?

上田 もともとは、よくよく考えてみたら赤ちゃん工場のニュースがずっと頭にあったように思います。ずっと気になってた。あそこで、赤ちゃんを金に換える、かたや太陽というのは核融合している、核融合の結果理論上は金だってつくれる、いろんなものが結びついている。今度はお金って何だろう、力って何だろうっていうように根本を突き詰めたいなという願望が絡まっていきました。

平本 『太陽』という作品を書くまでの自分と書く時にあたってご自身の中で変えようとした部分て何かありますか。

上田 リミッターをはずそうと思いました。純文学の中でどうかとか小説家を目指すならどうかとかそういうことではなく、単純にプリミティブに、文章を使って自分の表現したいものをやろうというのはありました。

平本 そうなんですね。上田さんのプリミティブにやりたいものとはどういうものなんですか。



上田 気になることを書くということですね。例えば最初に何があったんだろうとか、最後には何が残るんだろうとか。無の状態から何かが生まれる時、必ず、物質があったら反物質があるように、逆の方向の何かが否応なく発生してしまうんじゃないか?無の状態から何かが生まれたのであれば、そもそも一番原始的なところって何だろうっていうことが気になっていたんです。それを考えてみるアプローチの一つとして、錬金術があるなと思いました。錬金術って一時期は否定されたんですよ。そんなことは非現実的だという具合に。まあ今でも実現はしていないんですが、少なくとも道筋は見えている。頑張って核融合させれば出来なくはない。否定された当時は見えていなかった真実がそこにある。

今無理でしょって確信されていることも、百年後からみれば「なんでそんなこと無理だと思ったの?」ってなると思うんですよね。『太陽』という作品自体、デタラメがいっぱい書かれていると思うんですけど、今の現実世界というのを形作っている要素を細密に分析していって、それを材料に非人情的に無駄なく別の組み方をしていったら、現実を超えたデタラメになってしまうのかもしれないけど、ある種のリアリズムは保てるかなと。

平本 ははー、なるほど、確かにそうですね。デタラメではないですよ。科学や技術の進歩自体も、元々否定されていたものを見直すところから始まっていたりしますし、「これはあり得ない」と決めつけているところに実は進歩の大きなヒントが隠されていることもしばしばだと思います。『太陽』も100年後の“当たり前”を書いているかもしれません。

上田 現実を肯定する要素をきちんとその力学から把握した上で、文章を書く。現実とデタラメとの間で、それらを超越したリアルを表現できるんじゃないかというのを最近考えています。

平本 それが『太陽』を書く時に強く思われたところなのですね。

上田 今書いている作品も含め、こういうことを自分は面白がっているんだなと感じてきています。段々と分かってくるんですよ。そういうのを自分は楽しいと思ってるし、現段階ではやらずにいられないんだと思っています。

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