佐々木拓哉(神経科学者)×平本正宏 対談
収録日:2017年12月12日
収録地:東京大学本郷キャンパス
撮影:moco
編集:矢本祥子
<私たちの脳の仕組みを知りたくて研究者の道へ>
平本 この対談を始めてから7年になります。色々な人と対談をやらせてもらうと、面白いですね。思考の仕方が違っていたり、逆に違うと思っていたところについてすごく共通するような考え方やアイディアを持っていらっしゃる場合があります。人間性の多様性、根源的な部分で共通する部分がある。そのような理由で今も続けています。
ではまず、佐々木さんは普段どのような研究をされていらっしゃいますか?これからお聞きしたいと思います。
佐々木 基本的には脳を対象としておりますが、脳は様々な領域に分かれています。一般的によく知られているもので、記憶といえば海馬であったり、感情といえば扁桃体というのがあります。そして、どのような脳領域でもたくさんの神経細胞からできています。この神経細胞の集合によって脳はどういう活動ができるか、機能があるのかを研究しています。
一つの一つの神経細胞は活動すると電気を発生します。これが脳機能の本質です。たくさんの神経細胞の電気活動が集合したものが脳波となります。つまり大雑把にまとめると、神経細胞から発生する脳波を調べることで、脳で何が起きているのかを知ろうとしています。
平本 そのような分野を研究するに至ったきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
佐々木 単純に自分たち(の脳)はどうなっているのかな、ということが気になっていましたし、これは理系の考え方になってしまいますが、そもそも人間はすべて物質で成り立っているわけで、そうすると、私たちの考えや意思もその物質で説明できるはずだ、ということからやり始めました。
平本 なるほど、そうなのですね。佐々木さん自身はずっと前から脳の仕組みに興味があったのですか?
佐々木 そうですね。私はもともと薬学部なので、薬剤師にでもなれればいいかなと思っていました。大学に入学してから、ふとしたきっかけで今私の教授(池谷裕二氏)が出していた脳に関する本に出会い、読み、脳の記憶の仕組みについてこういう風に説明できるものなのだ、と思い、もっと研究をすれば色々なことがわかるのかなと思い始めて研究することになったのです。
平本 薬学部で勉強されていた内容は今とは違っていましたか?
佐々木 大学の学部生時代は薬の授業を受けていただけでしたが、脳はほとんど勉強していませんでした。大学院に入って東京へ出てきてから、はじめて脳の勉強をしたので、学部生時代とはまったく違う分野になりました。
平本 実際に研究をしはじめて、その作業はいかがでしたか?
佐々木 研究をやっていくうちに、自分の実験によって少しでも知りたいことがわかっていくことは楽しいですね。あと私は、国内では愛知県の研究所に勤務したり、その後海外の大学に移ったりするなど、様々な場所に住めたことも良い経験になっていると思います。
平本 東大に入られて、脳について研究をしたりしながら、いろいろな場所へ移動されているのですね。
研究をし続けると面白い発見も?