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東京を巡る対談 月一更新

Tekna TOKYO 2年目に向けて

2011年4月、平本正宏「TOKYO nude」のリリースからレーベル「Tekna TOKYO」の活動がスタートしました。

直前に東日本大震災が起きてしまったことで、レーベルのスタートも当初の予定より3週間程遅らせることになりましたが、音楽を作っていくこと、発信していくことの喜びと、使命感にも似た覚悟を強く噛み締めながら活動をはじめました。

リリースとプロモーション、初のレーベルイベントとなった「Tekna TOKYO Cyclone 1」を2か月後に行なって、7月からは2012年にリリースする作品の準備期間に入っていました。

レーベル2年目に突入する今年は、3~4作品を発表していけたらと考えています。

現状では、CDでのリリースを考えている作品は2つ。

そのうち、今年前半にリリース予定のバンドの作品は作曲がすでに3分の2ほど終わっており、後半にリリース予定のソロ作品は、昨年後半から断続的に実験を繰り返していて、3月から本格的に制作をスタートします。

また、ダウンロードのみの作品(枚数限定のCD-Rも考えています)も考えています。制作から発表までのスピード感を念頭に、今後のソロ作品に関係していくようなアイディアや実験に焦点を合わせたものを、ダウンロード販売する予定です。

音楽の嗜好がここ数年の中ではっきり変化したのが、昨年の終わりごろからでした。
電子音楽をあまり聴かなくなったのです。
生活レベルで、取り立てて言うほどの出来事があったわけではないのですが。
でも、よく考えてみると、新しい作品に取り掛かったことが関係していそうな気はします。
「TOKYO nude」でひとつの形に落とし込めたことも要因の1つではあるでしょう。

アブストラクトやノイズ、グリッチというものに対する興味が薄れ、シンプルな音に行き着きたいという欲求が強く出てきた感があります。
といっても、ミニマルに回帰したいわけではなく、たとえるならば、1つの数式やプログラムをモチーフに、時間感覚や構成・構造から解放された音を作りたいというような思いです。
もちろん、それが魅力的な音でなくてはいけないのですが。

あと、どうも気が短いのか、実は今までミニマル系の電子音楽はほとんどスキップ(早送り)して聴いていたことを告白します。
ミニマル独特の繰り返し繰り返しの時間固定・分節化の操作に僕の身体は合わないようで、速やかに変化が来てほしくなってしまうのです。

けれども、その変化が音楽的構成・構造の域をはみ出さない出来事だと気づくと、途端に冷めてしまう。
電子音楽において、音楽がいわゆる音楽的にーークラシカルな感覚としてーー展開していくことが、どうにも古臭く感じてしまいます。

そういう自身の生理が明瞭になってきて、ならば、その感覚をこそ新しく形にしなくてはいけないなと思っているところです。
次のソロアルバムは、その辺りの事情や気分が触媒となって生まれ出るはずです。

電子音楽をあまり聴かなくなってから、その代わり、よく聴くようになったのは「歌もの」でした。
レイラ・ハサウェイ、セント・ヴィンセント、ダグ・カーン、ナット・キング・コール、ペギー・リー、アル・グリーン、ジェイムス・ブレイク……。
初めて耳にしたものから昔よく聴いていたものまで様々です。

歌の力とか、そんな古びたことに今さら焦点を搾っているのではなく、「声を出す」ーーそのシンプルな行為に改めて着目したい。

それと同時に、ギターとチェロという2つの生の楽器を入れます。
曲ごとにできるだけ別種の雰囲気のものーーどの曲もポップに仕上げるという方針はあるがーーを作るようにしていますが、バンドのメンバーに提示するときの態度はいつも同じです。
演奏の核となるような最低限の情報やフレーズだけを渡して、あとはそれぞれのプレーヤーに育ててもらう。その面でもシンプルさの追求を試みています。
カッコいいフレージングよりは、演奏者なりの音が鳴るように。
そして、それは常に僕自身の想像を超えた変化の可能性を孕んでいるように。

12月にライブをした際、この手法が呼び寄せる結果の面白さは実証できたので、この考えをさらに収斂させて、目下バンドのアルバムを制作しています。

今年「Tekna TOKYO」が出す2枚のアルバムは、昨年から考え続けてきた僕なりの「シンプルさ」の読み解きになるのではないでしょうか。