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東京を巡る対談 月一更新

巻山春菜(畳職人)×平本正宏 対談 植物からものをつくる魅力

巻山春菜(畳職人)×平本正宏 対談

収録日:2015年6月18日

収録地:巻山畳店

撮影:moco

<じんわりと畳があるじゃない>

平本 日常の中で、畳とはどのように接していらっしゃいますか? 友人から巻山さんのことを紹介して頂いた時、女性の畳職人さんということに非常に興味を持ちました。畳職人の世界に女性の職人さんがいるというイメージがもともと無かった、何となくですが細身の体の締まった男性がお仕事をされているイメージでしたので。

撮影のとき色々とお話を伺ってみると、百年以上の歴史がある畳職人のお家で生まれ育っていらっしゃっていて、つまり、生まれた時から畳自体や、畳を作ることが身近なものであった訳ですよね。巻山さんは、畳というものに小さい頃から職人になられた今に至るまで、どういう風に接してきたのでしょうか? 僕らとはやっぱり違う感覚があるのでしょうか?

巻山 生まれた時から畳の上で生活してましたし、今は仕事として接しているので、自分にとっては当たり前なものですね。他の人から見て畳がどれほど特別なのかも分からないですね(笑)。

平本 特別な存在ではないんですね。

巻山 特に意識してなかったですね。意識をしだしたのも大学を出た後で、とにかくものを作る人になりたいと思って、そういう仕事を探している時に、自分が畳屋で育ったことは結構特別だったんだと初めて気付いたんです。

平本 結構特別ですよね(笑)、畳職人の人とすら知り合ったことが今までありませんでしたし。

巻山さんの他のインタビュー記事を読みましたが、ある時に「畳だ!」と思った瞬間があったそうで。


巻山 そうですね。大学時代に仏教美術を少し学んでいたことから伝統文化に興味を持ち、学芸員実習を通して工芸品が好きになりました。サークルでは畑を借りて菜園をやっていたこともあり、何か仕事でそれら好きなことが交わるものはないかなと思っていたら、ある時に「畳だ!」と気付いたんです。

畳は藁で出来ているし、表面は藺草(イグサ)、縁(へり)には綿や麻、昔は糸も麻でできていたので、全部植物から出来ているんです。工芸品ではありませんが、伝統的で職人さんが手で作るものなので、「はっ」と思いました。

平本 そうだったのですか。その「はっ」となったのは何歳くらいの時ですか?

巻山 大学出てからなので、22か23ぐらいの時ですね。ある日突然という感じではなくて、そんなことを 考えているうちに「あれ? 畳があるじゃない」って感じたんです。

平本 じゃあ本当にじんわり来たんですね。

巻山 そうですね。ところで駒場東大前にある日本民芸館をご存知ですか? 学生時代にそこで学芸員の実習をしていたんです。ある日、失われていた沖縄の麻布を記録を元に復元した女性の講演会があって、復元するのに畑から植物を育てるところから始めていったという話で、その時布ってそういえば植物から出来ているんだと気付いて、それ以来植物からのもの造りに魅力を感じるようになりました。畳も全部植物から出来ているんだと、その講演会がヒントになりましたね。

平本 なるほど。大学で学ばれていた仏教美術や伝統工芸、実習をしていた民芸館での体験から巻山さんが畳に結びついたというのはやっぱり巻山さんならではの発想ですよね。そして、その発想から巻山さんのそれまでの人生とリンクしたのは大きいですね。

巻山 そうですね。やはりこの家に住んでいなかったら辿り着かなかったと思います。学生時代の農園サークルでは何か農業に関する合宿をしようとメンバーと話し合い、春の追い出しコンパではイチゴ狩り、夏の合宿では農家にファームステイしていました。

平本 どういう農家だったのですか?

巻山 いろいろでした。お米を作っているところ、野菜を作っているところ、無農薬で有機農業をやっているところなどに遊びに行きました。直接農家を訪ねていくという行動力が備わりました。卒業後、畳に興味を持ち始めた頃に畳表の材料になる藺草を作っているところに行ってみようと思いました。藺草は熊本が有名なので、熊本に行ってきました。大地を守る会という自然食品の宅配をやっている会社があって、その会社では畳も扱っていて、無農薬の畳、減農薬の畳などを注文すると提携の職人が作ってくれます。たまたまその会社に知り合いがいて、減農薬の藺草を作っている人を紹介してもらいましたら、出会った人たちがまた良い方達ばかりで、すごく歓迎して下さったんです。その出会いが大きく、「畳良いかも!」ってより強く感じるようになって(笑)。

そこで色々体験させて頂いて、藺草農家の人達は、実際に畳を使う消費者と顔を合わせる機会が無いので、畳屋さんが伝えないと消費者に藺草農家の気持ちは伝わらないんじゃないかと、その時にいろいろ感化されて思いました。

平本 原材料を作っている人たちと出会えたからこそ、畳の良さ、農家の人達の頑張りで良い畳になるということも分かったのですね!

その藺草農家の家は熊本のどこですか?

巻山 熊本の八代です。八代が今藺草を一番作っている産地なんです。

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