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東京を巡る対談 月一更新

巻山春菜(畳職人)×平本正宏 対談 植物からものをつくる魅力


<腰を痛めるのが畳職人の職業病>

平本 ちなみに畳1枚を仕上げるのにどれくらいかかります?

巻山 私はちょっと遅いので、畳表と縁を替えるのに1時間半かかります。でこぼこを直す作業が入ると、もっとかかります。速い職人だと3、40分で終わります(笑)。今は大きい機械を使用しているので、もっと速く終わります。あとは表面に見えないところを丁寧に直すことにどれだけ時間をかけるかによります。

平本 えー、3、40分で出来上がるんですか! それはすごい職人の方がいらっしゃるのですね。巻山さんのスピードでも充分早いイメージです。ものすごく大変な印象ですし。

お客様の畳を直す作業というのは最初から取り掛かると、どのような手順になりますか?

巻山 まず、お家に伺って1部屋分の畳、だいたい6畳を職場 店に持ってきて一枚ずつ直していく。縁などを縫い付けている糸を切って、表をはがし、新しいものを張り付ける。単純にいうとそれだけです。

平本 持ち運びをすることでやはり筋肉はつきましたか?

巻山 つきますよ。作ることより運ぶ方に力がいりますから。しかも東京の家はみんな狭小ですよね。階段のところに物が置いてあると、運ぶときに曲がり切れなかったり、壁に当たると、壁を傷つけたり汚したり等運び出すのが大変です。畳を落とすわけにはいかないので、本当に慎重に運ばないといけないです(笑)。

平本 重い畳はやはり先程の40キロぐらいの畳になりますか?



巻山
昔ながらの家にあるのは藁で出来ているものが多く、20~40キロはあります。

平本 そんなにあるようには見えないのでびっくりです。

巻山 大量の藁をぎゅーっと、かちかちになるまで圧縮して作るので、密度があり重いのです。良い畳は丈夫にする為にそれだけ固めてあります。表も良いものは打ち込んである草の量が違うんですよ。

平本 はぁー、なるほど。実は昔柔道をやっていて、今思えば不思議なのですが柔道場の畳は少し違っていたように思います。

巻山 そうですね、道場の畳は普通の畳屋さんでは作られていなくて、特許みたいのがあるようです。スポーツで使うのは畳を模したマットなんです。

平本 あ、やはりそうですか! どおりで受け身をした時にあまり衝撃が強くなく出来ていて、よく足を擦った時に普通の畳だと段々痛むはずなのに、柔道場の畳は一切痛むことは無いし、全く畳の形が崩れなかったんです。これは何だろうなと思っていたらマットだったんですね(笑)。

巻山 でも考えてみたら柔道場で普通の畳をやる方が無理がありますよね(笑)。

平本 そうですね(笑)、いつからそのマットなんでしょうね。受け身が取れるのでそれほど大きく打ち付けることはありませんでしたが、ちょっと頭を打ったり肩を打ったり等あったので、その時にしっかりした畳だと衝撃が大きいだろうなあと思ったりしてました。

畳の修理をする時はどんな姿勢で作業をしていますか?

巻山 しゃがんだり、中腰でやっています。父も長年その姿勢でやってきたのですが、膝も腰も痛めてしまっているので今は作業台を高くしてやっています。畳屋さんは職業柄腰を痛めている人が多いです。

平本 巻山さんはそういった職業病で体の変化を感じたりすることはありますか?



巻山
やっぱり腰が痛くなりますね、あと腕の筋肉がつきます。お客様の自宅へ伺う時にアパートの中には、3、4階に上がるのにエレベーターが無かったりします。しかも古いところだと藁のしっかりした畳が入っていたりもするので、夏とか死にそうになりますね(笑)。

平本 それは大変でしょうね。

巻山 8畳だったら8往復なんです! 朝取りに行くのに8枚降ろして、夕方納める時は8枚持って上がらないといけない。

平本 えー、それだけでもかなり重労働じゃないですか!?

巻山 そうなんです。その時はハズレだなって思います(笑)。いつも行っているところなら「ああ、来ちゃったか」ってなりますが、マンションの古さで藁の可能性あるぞとわかるようになりました!

平本 建物で判断出来るのはすごい!(笑) 職人の長年の経験からの判断ですね。

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