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東京を巡る対談 月一更新

巻山春菜(畳職人)×平本正宏 対談 植物からものをつくる魅力


<農薬を使わずに虫食いのない畳に>

平本 無農薬の藺草と、そうではない藺草とはそれほど違うものなのですか?

巻山 そうですね。藺草は食べ物ではないですし、虫食いなどがあると商品にならないので、たくさん農薬を使うんです。丈夫さも大事ですが、綺麗というのが一番の価値観なので、たくさん農薬を使う。そうすると農家の人達の体には悪影響を及ぼしてしまいます。

平本 農家の人達はそれで体を悪くされてしまいますね。

巻山 そういうこともあると思います。中国でも今藺草を作っていますが、中国はさらに農薬を使っていると思います。広告とかに入っている安い畳は大体中国産の畳表が使われています。

平本 農薬を沢山使っていると、どういう差がありますか?

巻山 数字には出ていないかもしれませんが、その畳の上で寝起きすることになるので、あまり良くない気がします(笑)。実は花屋さんにある花も綺麗が第一なので、たくさん農薬を使うらしいですよ。

平本 はぁー。でも確かに本来自然の形だったら虫食いは当たり前ですし、一つも虫食いがなく、一つの傷も無いというのはあり得ないことですよね。虫食いが消失しているということは自然とは反対の方向へそれなりの工夫、努力をしているということですね。食べ物でも、最近は形が奇麗、色が奇麗なものを当たり前に思っていますが、本来自然の中で育っていたらそんなことはない。いつの間にか、手を加えられたものを自然だと思い享受するようになってしまっていて、でもそこには農薬が使われている等の代償が加わっている。藺草もそういったことが同じように起きているとは知りませんでした。農薬を使っている野菜に慣れてしまうと、無農薬の自然な野菜に青臭さを感じたり、自然のパワーを強く感じてしまうかもしれないですね。

自ら藺草の栽培を体験しながらそういう事実を知るということは、それまでの畳に対する考え方にも影響を与えましたか?

巻山 なおさら畳のすごさ、畳を作る面白さを感じるようになりました。


平本
それはいいことですよね。作曲をするときに、色々な楽器の曲を書くんですけど、その際に一番いいのは演奏者と直接やり取りをすることなんです。譜面上では可能な演奏でも、どう表現するとより良くなるか、その楽器と向き合う演奏者がどのような感覚を持つかを教えてもらうことで、新しい音楽のアイディアが湧いてきたりします。そうやって演奏者と一緒に曲をブラッシュアップしていくと曲もいい形になりますし、楽器や演奏者の勉強もできて、次に曲を書くときにもすごくヒントになる。巻山さんの藺草農家さんとのやり取りと伺っていて、なんか似ているなと思いました。

そこからすぐに畳職人になろうと思いましたか?

巻山 畳のことをもっと知りたいと思っていた時、畳学校の存在を知ったんです。全国に何カ所かあって、東京にもあり、普段畳屋さんで仕事をしている人達が歴史や経営、技術を勉強したりと月に何回か通うんです。私もそこに入ろうと思い訪ねたら、女だから駄目だよと断られました。生まれて初めて門前払いをされました(笑)。

平本 入学願書を書くことすらさせてもらえなかったんですか?!

巻山 そうです。この時代にそんなことがあるんだと、すごいショックでした(笑)。

平本 それはショックですね。

巻山 そこはもういいと思って、今度は京都にある学校を訪ねました。京都の方が本場だろうと思い、京都の学校を訪ねたら、京都の畳屋さんで働いている人達が行く学校なので、今度は働かせてくれる畳屋さんを探さなければいけなくなって。一応学校も京都の畳屋さんでどこか受け入れてくれるところがないか探してくれたのですが、女の人を預かるという責任もあり、また職人として使えるか分からないので、結局受け入れてくれるところは一つも無かったんです。

平本 京都には畳屋さんは結構あるんですか?

巻山 お寺とかも多いので、結構あると思います。

平本 東京は学校がダメで、京都は学校はOKだったのに預かり先が無かった……。

巻山 そうですね。それまでは軽い気持ちで「学校あるんだったら行ってみようかな」というノリだったのですが、いざ駄目と言われてしまうと何クソという気持ちが芽生え、余計意地が出てきました(笑)。どうしようかなって思っていたら、知り合いの畳屋さんが千葉に面白い職人さんがいるからと紹介してくれました。そこは息子さんが跡を継いでいたのですが、隠居しているおじいさんの親方が修行を受け入れてくれ、そこに決めて行きました。

平本 漸く修行をすることができるようになったのですね。

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