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東京を巡る対談 月一更新

中園晋作(陶芸家)×平本正宏 対談 溶けて流れて生まれるもの


中園晋作(陶芸家)×平本正宏 対談


収録日:2015年4月27日

収録地:SLOPE

撮影:moco

<プロダクトものの魅力から>

平本 中園さんの器を見た時に、究極の美しさを感じたんです。シンプルで、器の形とそこに広がる色合いが織りなす世界が果てしなく広く深い。色々な過程を経て、ここに行き着かれたのだと思いますが、必要ない力が1つもないというか、器の1つ1つが美しいオーケストラの演奏のような印象がありました。この世界観はどうやって作り出されたものなのだろうとずっと気になっていたんです。今日は色々とお話聞けるようなので、非常に楽しみです。

中園さんにとって、陶芸の魅力はどんなものでしょうか? ご自身の作品に行き着いた原点というか。

中園 色とか形ですけど、他の造形的なものと一番違うのは、焼成する事で溶かして流すような作業であったり、自分ではどうすることも出来ないものが過程の中にあるという点ですかね。自分の中でこういうふうになってほしいなっていうイメージで。

平本 それは焼く作業が入ることで器の色合いを完全にコントロールできないということですね。色合いはどうやって出されるのですか?

中園 釉薬というガラスの基(もと)みたいなものです。ガラスの粉があって、それを表面につけた状態で焼きます。自分の場合は、それをコンプレッサーみたいなもので吹き付けたりもしています。昔オブジェを作っていて、その時の技法をそのまま使ったという経緯もありますね。ここにある器もそうですけど、単色に見えないのは、同じ面で濃度が違うからなんです。その変化も面白いなと思って。

平本 吹き付ける色というのは、一色なんですか? それとも何色かやるんですか?

中園 一色で変化をつける場合もありますし、二色でもやります。例えばこの器は白とピンクが混ざった発色ですが、ピンク一色で出することも出来るんですよ。

平本 その吹き付け方には何か工夫や、こうやると一番良いという方法があるのですか?中園 ある程度実験をして、この辺りの色、質感でいこうと決めたら後は適当に(笑)。

平本 中園さんの器を眺めていると、色と形が融合しているような感じがするんですね。だからこの形があってこその色だったり、この色があってこその形であったり。色合いと形が鬩(せめ)ぎ合っているという印象を受けるので、ただ単に色がいい、形がいいというだけではないと思います。器の形を作るにあたっての工夫はありますか?

中園 最初、器にはさほど興味は無かったんです。あまり興味を引かれるものも無かったんですけど、器として最初に好きになったのはプロダクトのもの、いわゆる量産されているものだったんです。あれってすごくシンプルだし、よく手作りのものと比較されて量産品とか言われますが、実際に見ると良い器が結構あります。量産しなければならないからこそ、デザイナーがいて、考え抜かれている部分もあります。例えばコーヒーカップのハンドルの角度から持ち易さみたいなものも考えて、さらにデザイン性まで突き詰められているものなど、質の良いものが結構あるんですよね。その辺りの影響はあるかもしれません。

平本 なるほど。万人が気持ちよく使えて、さらに、いいと思えるデザインがあるということですね。

中園 陶芸をやるまではあまりそういう事を考えなかったんですけど、面白さを感じるようになりましたね。昔は土物でもそういうものを作れば良いのになって思ったりもしていました。

平本 あまり陶芸家の世界では、そういう方向には視点が行かないものなのですか?

中園 いかないという事はないのですが、陶芸家たちが目指す方向性としては違うのかもしれないとは思いますね。何でもやり始めた時は人とは違うことをしてみたいなって思うじゃないですか。僕の場合は、そのタイミングに自分の好みが乗っかって、器を作る事にも興味を持ち始めたという感じですね。

平本 それはいつぐらいですか?

中園 もともと陶器を始めたのは大学の頃です。美術の教員免許が取りたくて進学した先で、陶芸専攻を選択しました。

平本 陶芸が教職で取らなきゃいけない科目だったんですか?中園 教職のための必須科目、というのは入学したのが文芸学部芸術学科だったので、はじめのコース専攻の時点で絵画や染色などの中から陶芸を選びました。ロクロ、面白そうだなと(笑)。もともと立体造形が好きなんです。

平本 なるほど、立体造形が好きなのは陶芸をやる前からですか?

中園 陶芸をやる前からです。平面のものを見るのは好きなんですけど、描けと言われると出てこないんですよ。立体はものとして実在する感覚と、あと触れられる感覚が好きなのかもしれません。実体物は何でもそうなんですけど、角度によっても表情が変わるから、そういう余白のような部分にも惹かれるのかもしれないですね。それでも学生の頃は陶芸を仕事にしようとは思ってなかったですけど。

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