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東京を巡る対談 月一更新

大森立嗣(映画監督)×平本正宏 対談 社会の枠から出てはじめて生まれる愛

大森立嗣(映画監督)×平本正宏 対談

収録日:2013年5月28日

収録地: 南阿佐ヶ谷・阿佐ヶ谷住宅

対談場所:ポトロ

撮影:moco

<生まれながらのように安心する景色>

平本 今日撮影に選ばれた場所もそうですが、大森監督と僕は時代は違いますけど、育ってきた地域は似ていますよね。善福寺川でザリガニ釣りをしたり、近くの団地で友達と遊んだり。僕は善福寺公園で小学校の同級生だった松田龍平君とザリガニ釣りしていて、その松田君は俳優になって大森監督の『まほろ駅前多田便利軒』に出演して、僕は『さよなら渓谷』の音楽を担当した。その偶然の関係は、驚きでもあり、嬉しくもありました。

今日訪れた南阿佐ヶ谷の団地は大森監督にとってはどのような場所なのでしょうか?

大森 最寄りの駅は阿佐ヶ谷だったり、南阿佐ヶ谷使ったり、遊んでましたよ。まあ、それだけなんだけどね(笑)。そこでみんな、悪いこと覚えたりね。都立高校だったから自転車で行けるような範囲内の、それこそ井草中学(平本の出身中学)から進学してきたやつと遊んだり。で、大学に入ってちょっと変わったな、地元の仲のいいやつともなかなか会わなくなっちゃって。俺も引っ越しちゃったし、大学に入るとみんなそれぞれ別の世界ができるじゃないですか。

でも4、5年前に同窓会があって、それからまた付き合い出しているんだよね、この年になって。たまに阿佐ヶ谷で飲んだりするし。それでたまたま、映画の世界のやつはいないんだけど、東スポの最年少でデスクやっているやつ、元松井番だったやつが同級生だったり、双葉社の名物プロデューサーが同級生だったり。そうすると仕事の話が一応かみ合うじゃん。だからそういうやつとはたまにあったりしている。

平本 偶然でそれは面白いですね!

大森 そうそう。あと仲の良かったやつで、高校辞めてNY行っちゃって、俺が大学入ったときにNYまで遊びに行ったんですよ。そしたら、まだ全然食えてなくて、1ドルピザばかり食べているような感じで。そしたら、NYで美容師になって、いま有名なお店持っていて、セレブが来るようなお店になっている。おもしろいですよ。たまに帰ってくると一緒にお酒飲んで。

平本 僕の地元の同級生、どうしているんですかね。松田君ぐらいしかわからないな。

大森 でもまだ30歳でしょ? 30ってみんなガツガツやっているときじゃん。40歳くらいになると、いままで記者周りだったやつがデスクになったりとか、俺は助監督やっていたのが監督に落ち着いたりとか、そうするとちょっと時間にも余裕ができたりとかね。

平本 そうなると僕の年齢は一番難しいときかもしれませんね。

大森 そうでしょう。女の子は出産が終わって子供が少し大きくなれば外に出る時間もできるだろうし。

平本 今日監督と団地やその周辺を回って見ていると、こういう場所での幼少期の経験が監督の世界観に影響しているんじゃないかと思ったんです。『さよなら渓谷』も吉田修一さんの原作はありますが、それをどう視覚化していくかは監督が作るわけじゃないですか。今日の団地は、僕自身が小さい頃団地に住んでいたっていうこともありますが、妙に落ち着く場所、それに加えて都会の目まぐるしさからは隔離した世界という感じがして、『さよなら渓谷』のかなこと俊介の住む場所、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』や『まほろ駅前多田便利軒』の世界に繋がっていく気がしたんです。




撮影で訪れた南阿佐ヶ谷の阿佐ヶ谷住宅は取り壊し中だった

大森 ああいう風景って誰が見てもやっぱり心地いいって感じるじゃないですか、頭で考えるんじゃなくて体が感じる心地よさ。なんだろね、建物の雰囲気からグリーンのあり方とか、ああいうものって説明いらなく心地いいね、気持ちいいねってなるじゃないですか。今日も工事のための黄色い看板が余計だったけど。

映画も多分どこか説明よりも見た瞬間に、ああってなる映画的な風景があるわけですよ。だからそういうものは自分の中にあるんだろうね。

平本 それは大森監督自身が意識していないけどということですか?

大森 どうなんだろうね。俺はそんなに意識していないつもりだけど、どうなんだろうな。

実は昔植木屋なんかやっていたんですよ。ずっとアルバイトでやっていて、結構いい植木屋さんで日本庭園作ったりするんだけど、ああいう庭園も石の配置一個ですっごい空間が変わるんですよ。で、最後に水打つんだよ、わーって。そうすると本当にもう、空気ができちゃうというか。それでこの仕事結構好きだなと思っていた。そういう空間の気持ちよさとか、そういうのはあるのかもしれない。

平本 そうですね。誰から教わったわけでもないんですけど、生まれながらに持った心地よく思う景色って言うのがある気がします。安心感を抱けたり、そういう空間を求めたりする心というか本能というか。日本人だからの感覚なのかもしれませんが。

大森 詳しくは知らないけど、庭園の配置には色々と意味があるわけだよね、京都の寺の庭とか。元々はどういうところから来ているのかな、宗教とかなのかな?

平本 極楽浄土を表現したりとか聞いたことありますけど。

大森 なるほどね。理想の世界や神の世界を作り出していたんだろうね。

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