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東京を巡る対談 月一更新

大森立嗣(映画監督)×平本正宏 対談 社会の枠から出てはじめて生まれる愛

<削り続けることで外に向かうもの>

大森 『ぼっちゃん』っていう映画を作り終わってから、そのことはすごく感じているね。映画で秋葉原の事件をやったから、ものすごい否定的な意見も出てくるけれど、聞くに耐えないようなことも言われるわけですよ。そういう中で、なんだこの思考停止の人はって思う人もいる。思考停止して気持ちよく悪口言っているだけの人もいる。結局できることは、考えることしかできないわけよ。『さよなら渓谷』でもやっぱりそうで、あの話を「生理的に無理」って言われても、それってなんだよって。まあいいけど。自分でここでは何が起こっているんだろうって考えて欲しいなと思うんだけど。

平本 わからないことに対する拒否反応や、わかりやすいことに対する接近反応が、やたら強い人がいます。簡単に拒否したり、簡単に受け入れたり、でもそこには個人の思考があまり見受けられない。

大森 全部同じようなことだと思う。原発の問題とかも、気持ちとしては俺も反対だけど、あれは一概にどちらというのは言えないと思う。ものすごく難しい問題を孕んでいる。だから、そこに対して、そういう現実を見ずに、思考停止的に原発反対と言ってもその声は届きにくいと思う。そこには、考えることが大事で、考え続けることしかできない。みんながそれぞれ、問題意識を持つことがすごく大事。

平本 だから突発的な反応って、パッと見た印象はすごく敏感に見えるんですけど、その大半は何か重要な根っこが無い気がしてしまう。芯の部分が何なのか、論理的思考や考察が本当にあるのか、疑ってみてしまうことは多々あります。

演奏でも、いつも大体同じところに行き着く人がいるんですよ。そのときの楽曲やアンサンブルに対して真剣に対峙して何をすべきか考えたら、今までやってきたことに少し工夫を加えた方がいい演奏になる、そういう可能性があるのに、サッといつも通りやってしまう。それで、そういう人に「これが俺のスタイルだから」と言われてしまうとすごくやり取りするのが難しくなる。

大森 それは役者でも同じだよね。

平本 個性って、断ち切ろうと思っても自然と出てしまうものだと思うので、新しいことにチャレンジしたつもりでも「やっぱり○○さんだよね」って言われてしまう。出そう出そうと思ってやるものでは全然ないと思うんです。

大森 ないない。演技ではさ、お芝居は引き算だよってよく言うんだよ。やっぱり、見せよう見せようとやると全部見えなくなってくるんだよ。見ているとよくわかるんですよ、その様子が。

平本 すごくわかります。作曲も一番重要な作業は、音をどれだけ抜くかだと思っているんです。100個音が鳴っていたとしたら、それを突き詰めると10や20の音で成立することがわかる。この音が無ければ成立しないと思っていた音が、実は一番邪魔だったりということもよくあります。また逆に音を抜く作業の中で、シンプルにした世界が見えたからこそ、新たにこの音を加えたらよりいい曲になるということに気づいたり。引き算したからこそ、足し算の意味が見いだせることもしばしばです。

大森 で、そのあと俺が考えているのが、いま歌舞く、歌舞伎の歌舞くね。最近、そういうのがやりたいなと。これ映画の話になっちゃうんですけど、小さい映画はいまいっぱい出てきているわけですよ。才能があるやつもいっぱい出てきてる。で、カメラも小ちゃくなってきて、みんな自分たちの周りで友達と映画を作って、そういう中で出てくるやつもいるんだけど、なんかどこか狭まっているわけだよ。そういう小さい映画は観ている人も少ないわけ。で、外に向かう力が弱すぎるんじゃないかって思うわけ。もちろん、いいところもあるんだよ。色々な可能性が出てくるし、思い立ったらすぐできるようにもなっているけど、同時に見る人があまりにも少ないんじゃないかと。あと、ものを作っているのに、他者がいないっていう。内輪で作って、カメラも小さい。それで1週間公開しました、自分たちの友達でそこそこ満員になりましたっていうことで映画監督だって言っていいのかなって思うところもあるんです。

そうじゃなくて、映画自体は外に向かっている力がすごくある。で、カメラが小さくなったことは少し問題だと思っていて、カメラの向こうにお客さんがいるっていうことをどこか意識しなきゃいけないわけですよ。それがいやなら、盗み撮りしてやればいいんだよ。ただ、そんなものは観たくもないわけだよ。だから、どこかで歌舞くというか、そんなことを考えているんだよね。

それこそ『セーラー服と機関銃』で、「快感」っていう言葉を言わせるような監督がいまいないんだよ。すごく少なくなってしまった。みんな自然体で、自然にドラマがあって、いいでしょってなっている。そういうのが多すぎると思うよ。

平本 映画を観てて平和だなと思わされる作品が結構ありますよね。事件が起きる起きないではなく、映画の中に漂う空気が平和だと思う作品。

大森 雰囲気で作っているんだよ。雰囲気ものって俺は言うんだけど、雰囲気がいいよね、っていう感じで作っている。

平本 それは最悪ですね。音楽にもそういう作品が腐るほどあります。オシャレ雰囲気音楽というか、なんで作るのかなと思ったり。

大森 何も来ないよね。危ないよね。

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