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東京を巡る対談 月一更新

田中雅美(スポーツコメンテーター・シドニー五輪銅メダリスト)×平本正宏 対談 水の世界ーー重力からの解放

田中雅美(スポーツコメンテーター・シドニー五輪銅メダリスト)×平本正宏 対談

収録日:2013年8月22日

収録地:東京モノレール

対談場所:世界貿易センタービルディング展望台

撮影:moco

<物心ついたときから水が好き>

平本 今回、田中さんと対談させて頂けることなって、それじゃあと思いまして、週3回プールに通ったんです。

田中 おおー、すごいですね(笑)。

平本 別に水泳が得意なわけではないんですが、海やプールで遊んだり、ジャブジャブ泳いだり、元々水は好きで。今回とても素敵な機会を頂けたので、これをきっかけに水の世界と向き合ってみよう、体感しておこうと。

田中 どうでしたか?

平本 作曲している時って頭と耳、あと少し手先を使っているので運動が無いんです。でも頭はフル回転しているので、エネルギーと酸素をとても消費している印象があるんですが、集中してしまうとその意識が無くなっていく。そういう日常の中に水の世界と接する時間ができると、水の中で呼吸をすることを思い出して、意識できるようになり、体がリセットされるようなそういう感覚になります。加えて、水がもたらす浮遊感が固まった体を優しくほぐしてくれる。本当に心地いいですね。

水の中は好きですか?


田中 はい。それこそ、重力から解放されて、自分はいま漸く陸に慣れてきたけど(笑)、水泳選手ってよく陸が苦手と言っていて、重力に疲れるんです。膝とかもあまり強くないし、足首も柔らかいのですぐ転んじゃったりとか、あと階段が辛いとか、よくあります。これ、水泳選手あるあるです(笑)。動体視力がまず無いので、ボール競技も苦手だったりとか。

平本 ええ、そうなんですか。あれだけ修練しているので、陸でも結構体が利くのだろうなとイメージしていたのですが。

田中 全然ですね。

平本 じゃあ、住めるなら水の中に住んでいたい?

田中 住むっていうか、水の中の方が自分の体の自由が利くんです。

平本 そういう感覚っていつ頃からあるんですか?

田中 小さい頃から潜って遊ぶっていうのがすごく好きで、でんぐり返ししたりとか、何メートル潜水できるかっていうのが好きだっていうのが水に触れる始まりだったので、だから昔から好きだったんでしょうね。

平本 それこそ物心ついたときから水が好きで?

田中 ええ、そうですね。

平本 そこから水泳も面白いと思うようになったのですか?

田中 ただ、面白さだけで水泳をしていたわけではなくて、最初のうちはお友達に会いにという感じで。でも練習が段々きつくなるので、そうなると今度は続けていく理由がタイムを伸ばしていくことだったり、大会に行くことだったりに変わっていって、そうなると楽しい、面白いからはちょっと逸れますね。でも、大人のスイマーになっていくとまた楽しい、面白いに戻っていきましたね。

平本 なるほど。そうなると現役のときは勝ちたいとか、いいタイムを出したいとかそういう気持ちで競技をしていたんですね。

田中 そうですね。

平本 タイムが伸びるときも伸び悩むときもあるわけですよね。体調や体の変化もあると思いますし。そういうとき、競技に対して気持ちが変わってしまうということもありましたか?

田中 やっぱり水泳の魅力が感じられないというときはありましたね。それこそシドニー・オリンピックのときはすごく個人の競技がダメで、自分の自己記録を出せば上位を狙えたんだけど、全然いけなくて、なんて水泳は面白くないんだろうと思いましたね。頑張っても結果として出ない、つまらない競技ってすごく思いましたね。だた、最後の最後リレーで、まわりのチームメイトのかけ声のある中、なんとか三位に入ったときに漸くチームメイトのおかげで救ってもらったという気持ちになりましたね。

平本 リレーのときと個人のときは、何か感覚が違ったのですか?

田中 感覚というよりは、気持ち、個人のときはすごく不安だったんですけど、リレーのときはチームメイトが声をかけてくれたおかげで、1人じゃないんだと思えて。

平本 全員で励まし合って勝ち取ったわけですね。仲間がいて、全員で1つの目標に向かっていくのは、1人とはまた違ったパワーがありますよね。作曲っていう作業はもちろん1人でやるのですが、演奏家がいたり、バレエや映画などの場合は共同制作者がいたりするとモチベーションは変わります。一緒にいいものを作ろうという気持ちになって、それは1人では出せない力を出すことができたりします。

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