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東京を巡る対談 月一更新

田中雅美(スポーツコメンテーター・シドニー五輪銅メダリスト)×平本正宏 対談 水の世界ーー重力からの解放


<楽しまなければ始まらない>

平本 引退して、水泳に対する接し方は変わりましたか?

田中 最後のレースで気づいたことは、結果を求めている競技なんですけど、やっぱり楽しまなきゃ意味ないし、そこで戦える楽しさとか、表現できる喜びとかを、私は結構気づいたのが遅かったと思うんですけど、最後のレースで本当に実感することができて、結果的に個人でメダルを取ることはできなかったんですけど、すごく幸せだったと思うし。

きっかけはアメリカでトレーニングしているときに、アメリカの選手は結構練習は嫌いとか言う子もいるんですけど、でも、向こうの選手達って「I love swimming」っていうことをすごく全面に表現していたので、そういう風に思わないとやっている意味って無いよなと気づかされたり。あと、2002年の冬のオリンピックに取材に言ったりしたんですけど、そのときに上村愛子さんがすごく期待されていて、でもメダルは取れなくて。それでも、「モーグルって好きですか」って聞いたら、泣きながらも「はい、すごく好きです。楽しかったです」っておっしゃられて、私はシドニーのときに水泳を「全然面白くない」って思っていたけど、上村さんのようじゃなきゃダメだなと気づかされましたね。

作曲、嫌いになったりしないですか?

平本 作曲、嫌いにならないですね。どうしてもしたくないときはありますけど、そういうときは割り切ってしまって、逆に作り出すことではなくて吸収すること、映画を見たり、展覧会行ったりする時間にしてしまいます。

作曲って、創作活動で、楽しむ気持ちや好きっていう気持ちが少しでもないとできない、続かないんです。こういうことをしてみたいとか、この人みたいな作品を作ってみたいという意欲や憧れが作曲ってとても重要で、それがないとできない。だから、作曲したくないときは、そういうものを沢山得るように動いて、そうするとまたすぐに作曲欲が燃えてくる。

田中 でもスランプみたいなのありますよね?

平本 あります、あります。

田中 なんか想像ですけど、生まれないみたいな。

平本 楽譜をクシャクシャってして、頭かき乱すような(笑)、そういう瞬間はよくありますね。4日前にもありましたし(笑)。

田中 ついこの間ですね(笑)。そういうとき、どうするんですか?

平本 やっぱり時期ってあるじゃないですか。水泳に共通するかどうかわかりませんが、こういう方法で行こうと決めていて、それがあるところまではスムースに行ったけど、ある瞬間から限界を感じたり、感覚の変化や新しいことをしたい欲求が生まれて、いままでのことでは納得しなくなる時がきて。

そういうときに、意識は変化を求めているけど、一番しっくり来る方法を獲得しきらない。そんなことが作曲にもあります。そういうときは、自分が新しいステップを踏みたいときのことが多いです。僕はいま正にそういう時期で、苦しいんですが、結局作曲しながら模索するしかなくて、作りまくります。作って、ダメだと思って、何が納得いかないのか考えることを重ねていくしかないんです。

田中 なるほど、作るしかないんですね。

平本 そうですね、それを何度か続けていると、ある瞬間に「あっ!」と思うときが来るんです。

田中さんはスランプのとき、どうされましたか?

田中 泳ぐしかないですよね(笑)。

平本 ああ、同じですね。

田中 ただ少し違うのは、スランプのときは目標が見えなくなるんです。水泳の場合の目標は明らかにタイムなんですけど、そのタイムを出す自信がなくなるんですよね。そうすると、私の場合は、体がうまく泳げなくなったりとか。結果ばかり求めちゃって、何をすべきかわからなくなる。

平本 そういう時期ってどうしていたんですか?

田中 うーん。私の場合は、若いときアスリートだったので、コーチとかにすごく吐き出して、結構調子が悪い表現をしていました。だから、「お前は調子いいときは何も言ってこない、悪いときしか言わないな」って言われるくらいのタイプだったので、そうやって相談に乗ってもらって、自分の中の自信を少しずつつけていきましたね。

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