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東京を巡る対談 月一更新

田中雅美(スポーツコメンテーター・シドニー五輪銅メダリスト)×平本正宏 対談 水の世界ーー重力からの解放

<ストロークの回数と調子の良し悪し>

平本 最近はどんな曲を聴かれますか?

田中 最近はそうですね、リッキー・リー・ジョーンズとかいい感じにメロウで聴いてますね。女性シンガーが多いかもしれないですね。アメリカにいたときは結構ノリノリの、エミネムとか、JAY-Zとか、Destiny Child聴いたりとか。音楽は本当に好きで、車でもよく聴きますね。

平本 最近気づいたんですけど、車で音楽聴く方がなんか泣けてくること多いなと思って、体に浸透してくるというか。

田中 わかります。スーってなりますよね、スーって(笑)。適度な振動と流れる景色と。

平本 泳いでいるときって、音を意識されたりしますか?

田中 呼吸するときは歓声が聞こえますよね。それ以外だと、音っていうことじゃないかもしれませんが、いい記録のときってそういうことを覚えていないことが多くて、無の状態でいけるといいと言われていて。脳から筋肉に動きを伝えるときに、伝えるのではなくて、無の状態から動くようになるとイメージ通りのレースに繋がるとよく言われるので。ただ、それが何も考えていないとはちょっと違うんですよね。ストロークの数は常に数えているので。

平本 そのストロークはどれくらいの数なのですか?

田中 そうですね、100メートルのときは最初の50メートルで二十数回、後半は25、6回と決まっていて。1個のズレはありますが、200メートルだと18から19、最後は22、3。ただ、ストロークを合わせるんじゃなくて、力の入れ具合とか、スピードの掛け方で違ってくるので、それは自分の中で感覚を感じながら泳ぐんです。調子のいいときは、同じ感覚で行ってもストロークが少なかったりする。1ストロークですごく進む感覚です。逆に、同じ感覚で行っているのに1ストロークが短くなって、回数が増えるときもあるんです。

平本 ストロークの回数が調子を示しているんですか? 回数が増えると不調なのでしょうか?

田中 不調とイコールではないですけど、そういう目安にしている選手もいます。

平本 なるほど、そうなるとかなりそういう部分に頭を使いながら泳いでいるんですね。

田中 あと、音はやっぱり声援ですね。自分がトップになっているときに声援が大きいと、「いい記録で泳いでいるのかな」と思ったり。逆に世界大会で、まだゴールの10メートルくらい手前にいるのにワッと声援が上がったりすると、別の選手が世界記録を出したんだと思ったり。「あっ、出たな。早いな」って一瞬浮かぶんですよね。たかだか1レースなので、ほんの一瞬のことなんですけど。

平本 水の中では、興奮しつつも、神経を研ぎすまし、冷静に泳ぐんですね。

田中 そうですね。ちょっと脈もあげますからね。

最近、水中で聴けるウォークマンも出ましたよね。あれはいいなと思ってます。私たちはいつもラジオを練習中にかけていたんです、プールサイドで。ちょっと気分転換のとき、ビート板持ってキックするときなんかは歌を聴いたり。そうするとリフレッシュできたり、そこからテンションをあげることができたりするので。

平本 音楽って流れるだけで景色が変わったり、気持ちが変わったりしますね。本当に田中さんとお話ししていると実感します。音楽って、本当にすごい!! 僕が言うとなんかおかしいですね(笑)。

田中 あはは。そうですね。でも、音楽の世界、大変だと思います。競争もすごいでしょうし、本当に一握りじゃないですか、トップで活躍されるのは。

平本 そうですね。うん。これからどうなるか、自分の興味が変われば曲も変わりますし。でも、自分がたどってきた、作ってきた歴史は無かったことにはできないので、いま自分がやりたいことと真剣に向き合うことで、その積み重ねが続けられたらいいなと思っています。自分の世界は大変なときも多いですので、田中さんにとっての音楽、僕にとっての水泳をはじめ体を動かすことは、気分を変えたり、モチベーションを高めたりするために重要だと思いますね。

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