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東京を巡る対談 月一更新

鳴川肇(建築家)×平本正宏 対談 遠隔地の風景と時間軸の作図法


鳴川肇(建築家)×平本正宏 対談

収録日:2011年2月10日

収録地:日本科学未来館(新交通ゆりかもめ船の科学館駅徒歩5分)

対談場所:the SOHO the Canteen

司会:村上祐資

撮影:moco

<国際宇宙ステーションの軌跡を一筆書きで>

平本 僕がオーサグラフを知ったのが、2010年、ICCの展示のときですが(『オーサグラフ:ISSロングターム・トラッキング』)、見て吃驚しました。ISS(国際宇宙ステーション)の軌道を途切れることなく描けることに驚いた。


鳴川さん達が開発したオーサグラフ・ワールドマップ

地球は歩き続ければ、球体なので一周できる。ですが、普通の世界地図を見るときは、世界を途切れたものとして頭で捉えることに慣れてしまっている。そこへ、鳴川さんのオーサグラフによって、無限というか、いつまで経っても続く地球を平面で見せられた気がして、吃驚したんです。
先日の東京都写真美術館での展示(『映像をめぐる冒険vol.4見えない世界のみつめ方』)では、地図ひとつで歴史認識が揺れ動く感覚を味わいました。

僕はそう感じたんですが、オーサグラフを作ったことで、鳴川さん自身の地球の見えかたは変わりましたか。

鳴川 変わりました。


地図製作では、紙の模型を何個も作って、鉛筆で線を引いたり、はさみで切り開いたりして、「やっぱり長方形になる!」っていうふうに、確認しながら設計するというか、指先で計算するというか、そういう方法で作業を進めていくんですね。

これによってどの地域も歪みを分散して均等に表示できるなとか、繋ぎ合わせれば国際宇宙ステーションの軌跡を一筆書きで描けるなとか、できあがったものの特長や、何に使えるかを考えながら作るよう心がけています。

さらに、この地図は、紀元前から50年単位で地図を並べていき、4000年間の歴史を一望できる。時間軸も含めて、長方形で見られるな、と。そういう応用のしかたを考えながら開発していくわけです。

こうして、実際に世界史を勉強しながら地図で表現していくと、いままで建築と幾何学しかやってこなかったのに、突然、歴史分野のかたたちに教わりながら作業をするので、新たな発見が色々ありました。


4000年間の歴史をオーサグラフ上で一望できるアプリケーション

平本 地図を作るうえで「これは想定外だった」というような体験ってありますか。

鳴川 分かりやすい例で言うと……。

南極を中心にした世界地図を作ってみると、南極は太平洋と大西洋とインド洋に全部面しているな、という発見がありました。同時に、世界の飛行機の航路を調べていて、ある人に、アルゼンチンの南の方面に日本から行くのに南極回りの航路があって、ニュージーランドでストップオーバーして行くらしいよ、と聞いて、ハッとしましたね。そういう発見は日々あります。

平本 物の見えかたのちょっとした変化で、世界の見えかたががらりと変わってしまったという意味で、僕にとってオーサグラフは衝撃的でした。身近なものが根底から覆るというのは、不思議な体験ですよね。

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