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東京を巡る対談 月一更新

高谷謙一(「にほん酒や」店長・飲食店経営者)× 平本正宏 対談 旨いものこそ生きる糧


高谷謙一(「にほん酒や」店長・飲食店経営者)×平本正宏 対談

収録日:2012年6月14日

収録地:吉祥寺駅前

対談場所:いせや

撮影:moco

<美味しくするためのセルフプロデュース>

平本 僕は高谷さんの「にほん酒や」に通い出して2年くらいになりますが、最初に伺った時から美味しいなと思いました。日本酒と料理の組み合わせが最高にいいんです。

美味しいものを作ることってすごいことだと思うんです。今まで「にほん酒や」に色々な年齢の知り合いを連れて行きましたが、皆美味しいと言いますし、年齢を超えて美味しいと思わせるのは何かあるのでしょうか?

高谷 特別考えてることはあまりなくて、ただ僕の中で変わらず軸にしているのは日本酒を呑んでもらうにはどうしたらよいか? ということですね。今の日本酒は本当に美味しいと自分は思っているので、それを楽しめる場を用意すれば日本酒を呑んでもらえるんじゃないか。それでもし美味しいと言っていただけてるとしたらその方達はうちを楽しんで下さっているんだと思います。そこには年齢は関係ないかもしれません。

日本の酒と書くくらいですから日本人が呑まないのはもったいないです。自分の実家は田んぼをやっていまして、その景色はやはり残していきたいと思いますしそのためにもお米はもっと楽しみながら食べて呑んでいかないと。米からできるものですから日本人の味覚にももちろん合うはずです。

平本 日本酒が食事に合うという感覚はすごく感じますよね。食材とか味付けの仕方とか、日本人の舌に馴染むようにすることは、日本人である以上当たり前のように思います。

高谷 お米の味には旨味や懐かしさって絶対あると思います。旨味成分が唯一あるお酒というのが日本酒なんですよ。

旨味って、出汁もそうですが、昆布だけで取るよりも昆布と椎茸で取った方が相乗効果があってより美味しいと感じる。それは科学的に証明されているらしいです。それと一緒で、食べて旨味があるものを飲むと、口の中での相乗効果が生まれる。ビールや焼酎と違って、ちゃんと重なって味わいになるという面白さが日本酒にはあります。

でも、そういうことを言ってるだけもダメだなと思って。シンプルに旨いものを出すというのが一番必要なことで。それと語るより、さっきも話しましたが日本酒と料理を楽しめる場を作って体感していただくのが一番ですね。

あと気をつけているのは今までの日本酒の店とは少し違うな。と感じてもらえるような雰囲気作りです。ある種の非日常感ですね。そこで「あっ、この店は今までの日本酒の店とちょっと違う。何か面白そうだな」と感じていただいて、そこから楽しいという気持ちになってもらう。そうすると自然と美味しいというのが出てくると考えています。

平本 そうですね。楽しくない時は、どんなに美味しいものでも味が半減しますし、その雰囲気というか空間作りは重要ですよね。

高谷 基本的にはいかにリラックスしていただくか。もちろん単純にいい素材を使って美味しいものを作っていくというのがいいのですが、それだけでは今は難しい・・・。

平本 トータルプロデュースなんですね。

結局音楽もレーベルを簡単に作れるようになって、セルフプロデュースをするアーティストが増えたんです。メジャーなアーティストだと、レディオヘッドとか、日本だとGLAYとか。アーティストは曲さえ作っていればいい、後は誰かがやってくれるという時代はもう終わって、全てのアーティストに自分たちのスタンスを最大限発揮するためのトータルプロデュースが求められている。

写真やアートワークなどを含めてどういうイメージを作るか、お客さんにどう楽しんでもらうライブにするのか、音楽以外の映像や美術とコラボレートしてみたり、色々なことが考えられるわけじゃないですか。そういうことが求められるということは、そうあるべきという使命もありますが、逆にアーティスト自身がそのことを楽しめる時代になったのだとも言えます。

だから、僕もレーベルを立ち上げることにしました。かなりカツカツな部分はありますが(笑)。すべてのディレクションをするという意味ではスリリングですね。いい音楽を作ることは大前提で、かつそれをどれだけ聴く人が楽しんだり、ワクワクしたりするように持っていけるかという感じです。

高谷 本当そうですよね。もう出してそれで終わりという時代ではないですよね。僕も使い切れていないですが、facebookとかtwitterとか色々なソーシャルメディアをうまく使って、この音楽を聴くにはこう聴いたら楽しいよというのを提供できる時代かなと。

日本酒にしても今までは単に提供すればいい、いいお酒さえ揃えていればいいという感じだった。まあ、今でもまだそういうとこはかなりあると思いますが。ただ、もうそうではない流れもあって、その流れは大事だと思っています。

平本 その方がお客さんにとって身近なお店になれますよね。

高谷 そうなんです。ツイッターで配信することもそうですが、意識して自分のお店はこういう風に思ってもらいたいというのが僕の中にあるので。セルフプロデュースできる店というのが、これから長くやっていく上で差が出てきますね。

平本 それができないとたぶんお客さんの意識の変動に対して対応できなくなりますよね。

高谷 そうですね。何でうちにはこういうお客さんが来て、何でこのお酒が人気があるのかということは分かっていないと対応できなくなります。何となく「お客さんが来てくれるな」とか「今日も美味しい料理が出来たな」とか、何となくでやっている人はそこがないので、ちゃんと意識して、理由をちゃんと分かっていて、意味があってやっているかどうかで全然変わってきますね。

天才で勘だけで出来てしまう人もいるんですけど、どんなことにも意味があるのでそれを分かっているかどうかが大事。同業の方と話していてもそれが分かっているかどうかで話が全然違いますね。僕は昨日やっとほんの触りだけわかったんですが(笑)。

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