document

東京を巡る対談 月一更新

高谷謙一(「にほん酒や」店長・飲食店経営者)× 平本正宏 対談 旨いものこそ生きる糧


<ノリや勘を超えて意識すること>

平本 作曲の勉強をし始めた時に、先生に言われてガツンと来たことがあって。それはすごく簡単なことなんですけど、「好きになった曲の理由を書きなさい」というものなんです。

好きになった曲って感覚的に「かっこいいと思った」くらいのことしか言えなかったりするじゃないですか。でも、10曲、20曲並べてみると結構系統立っていたりするんです。

高谷 わかります。

平本 自分がどういう曲を好きになるのかが明確になっているだけで、自分を伸ばすところも分かるようになるし、逆に補った方がいい部分も分かるようになると言われて。最初の頃はそれが全然答えられなかったですね。

高谷 自分もそうですよ。基本的にはそこは考えなくていいと思っていたので。何か言われても、「いいから」以上のことはないと思っていたのですが、それだとこの先には進めないんですよね。

何か失敗した時に「がんばろう」ではなくて、「ここがこうだから失敗した」と考える。そして、そうならないようにやっていく。ただ頑張ろうとか、そういった雰囲気だけでやっていけるレベルではないというのは最近特に思います。

平本 自分が先頭に立って舵を切らなきゃならないときは、ノリでは絶対にダメですよね。

高谷 人に教える時って、自分で分かっていないといけないですから。自分もまだまだですが、それを言語化していこうと意識しています。

平本 言語化すると他人も共有できて、その他人がまたそこから新しい発想をくれたりするじゃないですか。

高谷 やっぱりいい意味でわかりやすくする必要がすごくあると思うんです。もちろん感覚で分かり合えたら言うことないですけど。

平本 そういう人って何万人にひとりいるかいないかくらいの次元だと思いますし。特に同じジャンルとなるとなおさらいないですね。

高谷 自分って天才じゃないんだな。と泣き崩れたこともあります(笑)。

平本 僕将棋が好きなんです。

高谷 ああ~。

平本 将棋を好きになった理由は単純で、2008年くらいに初めてスランプみたいになって。ちょうど大学院出た時だったんですけど、修了制作で大きな作品作ったら何したら面白いのかさっぱり分からなくなってしまったんです。もちろん、仕事の曲は作っているんで年間100曲くらいはそれでも書いたのですが。でも、自分の中で面白くないという引っかかりがあって。

そのときに将棋を見始めたんです。棋士が相手と一つの盤面をはさんで、ただただ目の前の対局のことだけを考えるという状況やそのときの精神状態みたいなものに興味がわいてきて。あと、将棋を見始めてとても魅力を感じた部分が、対局後の感想戦なんです。

将棋って勝負が決まった後に感想戦という反省会みたいなものを必ずするんですよ。この手が悪かったから負けたとか、ここでこう指していれば逆に勝っていたとか。その対局で起きたことの成功や失敗をちゃんと相手と共有する。それは素晴らしいなと思いました。それをすることで将棋自体の研究の向上にも繋がるわけですから。

縁台将棋レベルだと負けたおじちゃんが「もうやんねえ」と憤慨して終わってしまうこともよくあると思いますが(笑)、プロは違うなと。

高谷 将棋の棋士には長い歴史を一緒に共有しているような感覚があって、僕らはみんなでもっと先に行こう、としているような意識が感じられますね。

平本 未来を見据えるというか、過去と未来の間に自分がいると言うことを意識すると、結構言語化とか反省とか重要になってきますよね。

高谷 本当にそうですよね。同じことをしていてもしょうがないですし。僕は子供が生まれた時、教科書で見た歴史の流れの上にいるんだなと思ったんですよね。

平本 ああ、命を繋ぐという。

高谷 大層なことではないですが、歴史上の話って嘘じゃないんだと思うような感覚があったんです。

1 2 3 4 5 6 7