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東京を巡る対談 月一更新

高谷謙一(「にほん酒や」店長・飲食店経営者)× 平本正宏 対談 旨いものこそ生きる糧

<マイナス要素を超える個性>

平本 今回対談するにあたって考えたのは、音楽って聴かない人もいますし、作らない人はほとんどですけど、料理って全員食べるし、ほとんどの人が料理するじゃないですか。だからすごく肉体的、生命的なものだと思うんです。

高谷 だから日本酒とおいしい料理を日本で食べる。こんなに理にかなっている組み合わせはないです。最初の頃こそ店名も含め(笑)やめた方がいいのでは? と言われましたが、こればかりはまあ大丈夫じゃないかな。としか思えなかったですね。


高谷さんが店長を務める「にほん酒や」

平本 ああ~。僕もレーベルやっていると大丈夫なの? って言われることあって、大丈夫だと思いますと言うしかない。だって、ダメだろうと思っていたらはじめからやっていませんし(笑)。予防線張ってもしょうがないですしね。

高谷 そうですね。

平本 日本酒だけで大丈夫か?と言われても、じゃあ焼酎も出してという考えにシフトすることはないでしょうし。もしそこで焼酎を出しちゃったら、コンセプトがずれますよね。

高谷 そうですね。だから、その辺のさじ加減は人それぞれだと思うんですけど、僕の場合はいい意味でわかりやすく偏った感じにしますね。

看板はわかりやすい方がいいです。うちはお米のシャンパンもありますけど、日本酒とお米のシャンパンの店ですとは言わなくていいと思っています。

平本 それは絶対にそうですよ! 看板はわかりやすくないと、何のお店か分からなくなって、お客さんも入りづらいです。

高谷 看板がわかりやすくて、中に入ったら違うものもあるとしても、サービスの力でそこをうまく満足してもらえるようにできますね。

平本 見た目で気にかけているところはありますか? お店はガラス張りで外から中を見ることが出来ますよね。

高谷 うちは飲食店としてはマイナス要素は多いと思いますよ。日本酒に関して言えば、日本酒の店なのに銘柄の種類が少ないとか、ガラス張りは落ち着かないともとれますし、席の狭さやトイレも入り口すじにありますし。それは意識しますがあまり考えないようにして、それよりも変わった日本酒があるとか、それと相性のいい料理があるとか、一般の飲食店がやっていなことが一つ、二つとあるだけでその店に行く価値は作れるんじゃないかと。マイナスはプラスでチャラにするしかなくて、それは個性ですよね。

平本 マイナスを消すことを考えるってちょっとおかしな話ですしね。

高谷 本当そうなんです。そこはあまり必要ないなと思って。

平本 プラスとマイナスって表裏一体だからマイナスを消していくと消したことによってプラスもなくなっていくんじゃないか。音も完璧な音って何かと言われると、厳密には存在しないんじゃないかと思います。

高谷 やっぱりバランスですよね。マイナスはあってもよくて、マイナスに釣り合ったプラスがあれば全然いいわけで。そういうのは音楽でもあるんですね。

平本 そうですね。まず音楽なんてこういう風な曲! と大体のジャンルが決まった時点で、そのジャンルを好きでない人を遠ざけてしまいますから。もちろん自分の曲によってある人が嫌いなジャンルを好きになるきっかけになることもありますが、ピアノの曲を作ったときにピアノの音が嫌いな人はどうするんだ? と言われたら、音を出せなくなるところまで行き着いてしまう。

だからプラス面がどんなに力を持っているかというところで勝負していかないと、何も生まれないんです。

高谷 個性を打ち出すしかないんですよね。

平本 ただ、逆にそう言いながらも、すごく沢山の人に支持される曲、例えば「ホワイトクリスマス」とか、そういうのはすごいなと思います。ポップの最先端にいたり、ポップの金字塔になった曲は絶対にすごいですよ。

高谷 一つの要素だけでなくタイミングもあるでしょうし。歴史的なタイミングとか、色んなものがはまってはじめてという感じですよね。

平本 そうですね。単に作曲の力とか歌の力だけでなく。

高谷 トータルプロデュースでここだというところで出せればね。ただ、あまり狙えないんでしょうけれど、用意する必要はありますよね。

平本 狙えないんですよね。投げ続けることは出来ますけど、はまるのは自分たちの力だけではないところがあるので。波には乗れても、波を作り出すことはできませんから。

高谷 用意する必要はありますね。いつでも俺は売れるという用意は。

平本 いつでも作れるぞ! という。

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