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東京を巡る対談 月一更新

高谷謙一(「にほん酒や」店長・飲食店経営者)× 平本正宏 対談 旨いものこそ生きる糧


<バシバシ打ち出してゆくライブ感>

高谷 あとは要素を感じ取る。情報をいかに多く持つかが大事ですよね。これはブログとかツイッターなんかですが。今日来そうだなというお客さんの情報をあらかじめその日の営業前にチェックしておくんですよ。この人が来るのだったらこのお酒、この料理というふうに用意しておいて、実際に来た時に用意したものをはめていくんですね。すると色んな人にバシバシとはまって、店全体がスゴイ雰囲気になる時があるんですよ。

平本 へえー!

高谷 あれは気持ちよくて。狙って出来るものではないですが、いくつかエッセンスを用意しておくのは一つの手としてあるんです。それが自分が思いもよらないことを招き入れる一つのきっかけになるのかなと思います。

飲食店ではそんなことしなくてもちゃんと旨いものを出すだけで成り立っている店はいっぱいあると思うんですが、情報を集めて奇跡を呼びこむ準備をしておくんです。

平本さんのライブで言えば、お客さんでこういう人が来るのだったらその人が喜びそうなフレーズをいくつか入れておく。それだけでお客さんは反応すると思うし、その反応が色んなところで重なると自分が思いもよらないことを呼び込めるんですよね。連鎖反応で。

平本 それはすごくわかります。作曲的と言うよりも演奏的ですよね。決め決めのものというのは危うい印象があるんです。例えば、事前の準備が100%ガチガチで変更の余地がないほど綿密だと本番は絶対に想定以下のクオリティーになってしまう。

逆に一つのものを100%でなく、70~80%のものを大量に持っておいて、その場の空気や演奏者の出方で臨機応変に対応してそれぞれを120%までライブで伸ばしていくとうまくいくんです。ここで面白いのは、例えば10個音ネタを用意していたとしたら、事前には1と3を使おうと思っていたけど、本番では7と9を使ったという風なことが多い。スリリングですけど、演奏の場がダイナミックになりますね。

高谷 準備をしておく必要はありますよね、手持ちを多く持って。

平本 全くの真っ裸で行くのはダメで、ちゃんと出せるものを持っていてはじめて思いもよらない方向に伸びていく。そこからこんな展開があるんだと、日常の作曲にフィードバックしていくのが面白いと思います。

高谷 料理もいかに仕込んでおくかがすごく大事です。前に何かで聞いたのですが、ダウンタウンのフリートークにあこがれた若手芸人が、本当に何も準備せずにお客さんの前に出て行ったら全然受けなかったらしいです。それで、どうやっているのかと聞かれたダウンタウンが、フリートークといってもある程度は準備していると答えたと。

本当に何もない状態で出せるのはよっぽどの人ですから。下準備して、自分の引き出しをいっぱい作っておいてそれに対応したものをタイミングよく出すという作業は経験が大きいですね。凡人はそうやっていかないと呼び込めないので。

平本 モーツアルトとかすごいなと思いますよ。本当にすごかったみたいですから。

高谷 鼻歌がミリオンヒットみたいな。

平本 狙いたいところですね(笑)。

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