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東京を巡る対談 月一更新

中園晋作(陶芸家)×平本正宏 対談 溶けて流れて生まれるもの



<作品が手を離れてゆく面白さ>

平本 逆にご自分で想像もつかないところまでチャレンジしたりするということはありますか? 先程の作業をされながらも、これをやったらどうなるんだろうということを試験的にやることってありますか?

中園 全く一から試験的にというのは少なくなってますけど、細かいところでは、よくやっていますよ。

平本 その細かいところ、最近ではどういうことをされていますか?

中園 実験的にやっていることは、やはり釉薬に関する部分が多いですね。色や質感です。絵の具のように混ぜたらこの色になるとか無いんですよ。ある程度、限定されている中でやらないといけないので。例えば同じ緑でも、質感で印象が変わるので、ペンキで塗ったような感じから、ガラスみたいなものまで。あと、色に関してだと、好みの問題でもあるんですけど絵の具の原色みたいなものは避けたいと思っています。そういう風に既に調整されたものもあるのですが、出したいものとは違ってきますね。

平本 それをやってしまうと、これは何色だって特定出来ないような淡さ、美しさが出ない?中園 かもしれません。ピンク色と言えば1つですが、どれを自分のピンクにするか、みたいなのは各々の感覚な気がします。


(中園さんの器を使って、ケーキが登場。)

中園 今回のように実際に使われるのを見られるのは嬉しいです。ネットなどでも使われている様子が見られたり、こういう技術の無かった昔にはなかったことだと思うので、今はそういう点は恵まれているのかもしないですね。

平本 自分の手を離れたところで作品がどう扱われるかを見ることができますよね。

最近の活動は、いかがでしょうか?

中園 そうですね。ある程度落ち着いて、今度は今までと違うものも持ちながらやっていかないといけないなとは思っています。

平本 違うものというのは?

中園 感覚のようなものなんですけど、今までは想像でしかなかったですけど、人が使ってくれることで、それが自分に返ってくるようになってきました。それは自分にとってすごく嬉しいことで、それも意識しながら作れるようになってきたので、影響は大きいですし、不安感が湧いてくることも多々あります。限定するような言葉や思考は危険だな、と思うことがあります。例えば「器は盛ってこそ」みたいな、そういうのにはピンとこないところがあって。

平本 それはどういう意味ですか?

中園 器は盛ってこそ完成する、というような意味の言葉なんですけど、自分の場合はそこを追求しようというよりは、一つの要素としての楽しさとして、というくらいで、それでこそ、という感覚は無いんですよね。

平本 それはわかります。僕の曲を弾いてくれるチェリストも、良い曲だからがんばりますって演奏してくれる。でも、じゃあ彼の演奏が無いと僕の曲は完成しないかというとそうではなくて、彼にお願いした時点で曲は完成している。大切なのは、彼の演奏によって僕の曲が、予想以上に良い完成度になることのような気がします。こんなにいい曲に仕上がった! という楽しさというか。

中園 それはありますね。そういう新たな楽しさを発見するような感覚はとても嬉しいものですよね。例えば、最近だと生け花をされている方が声をかけて下さって、自分が鉢として作ったものに、花を活けて下さった。この器で花? と正直思っていたのですが、活けられていくうちに鉢が花器になっていく。その時点では想像もしていなかったのですが、花器に対する自分の考えも広げて貰えることになりました。

平本 他者とのアプローチをしたら、こんなことをしてくれるなら自分もこんなことを返してみようかというのはありますよね。

中園 自分だけでは思いつかなかった方向に対しても、目を向けさせて貰えますね。特に感覚的な感想などは人それぞれで、聞いて面白いなと思うことが多いです。

平本 だからこういうインタビューをしていると本当に面白いんですよね。一人残らず「あー、なるほど!」って共感出来るところがあるんですよね。だから感覚に素直になることは結構いいんじゃないかと思っています。

最後に、カフェ「SLOPE」を「東京を感じる場所」に選ばれた理由をお聞きしたいと思います。





中園 今回の対談場所を考えた時に、自分は器を作っているので、 それを間に話すのも良いかなと思いました。 SLOPEはまだ新しいお店なのですが、 常連である僕の友人から展示会のDMが置いてあったと連絡をもらって知り、連れて来て貰いました。その後も色々な所で、器を通した繋がりがあることが分かって、上井草のこのお店から、器をきっかけとして繋がり広がっていく感覚が面白いなと、今回は対談場所にお願いしました。何かを作っていけば、 意識出来ないところでも広がりは起きていて、 さっきの話にもありましたけど、器の使い方も自分が意識していなかったような広がりは面白いんです。

平本 確かに中園さんの器って、器に盛りつけられている料理がどれもおいしく見えますよね! 僕も以前購入した中園さんの器に貝ひれを盛るのが好きなんですよ(笑)。

中園 ありがとうございます。ここ最近は、自分が作り出したものから繋がりが生まれたり、そういうことが自分の原動力にも影響しています。それは今日話してきたような、動き出した頃には思いもよらなかったことで、今後どういう風な変化が生まれてくるのか、自分のことながら客観的に楽しみにしているような感覚があります。褒めて貰えて嬉しい、というようなことでなく、核になる部分に影響するような感覚です。先々どうなっていくか分からないというのは、ある意味楽しみで幸せなことですよね。10年、15年後にまたお話ししたいです。今回の話を肴にでも(笑)。

平本 今日はありがとうございました!


中園 晋作  / Shinsaku Nakazono

兵庫県神戸市出身。
2003年 近畿大学文芸学部造形美術専攻 卒業
2004-2006年 神戸市立小学校 常勤講師
2007年 神奈川県川崎市にて制作

2010年 栃木県益子町にて制作開始
現在    全国各地の常設展や、個展等を中心に活動中

http://nakazonoshinsaku.web.fc2.com/index.html

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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