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東京を巡る対談 月一更新

巻山春菜(畳職人)×平本正宏 対談 植物からものをつくる魅力


<父はシャンソンを聞きながら>

平本 普段音楽は聴きますか?

巻山 はい、聴きます。何でも聴きますけど、特にROVOは好きで聴きます。芳垣さんのドラムが好きです。フリージャズな感じで、そういう系が好きです。

平本 ROVOが好きなんですか、大分前にライブ観に行ったことを思い出しました。もう10年以上前だと思います。音楽の嗜好は何ですか? 昔からこういう系が好きとか。

巻山 結構あまのじゃくなので、有名なものとか流行っているものは聴かないかもしれないですね(笑)。昔はライブもよく行っていましたが、最近は行かなくなってますね。

平本 音楽を聴きながら仕事をしますか?

巻山 音楽を聴きながらはやらないです。ラジオを聞いてやっています。だけどチャンネル権は父にあります(笑)。私だったら普段FMを聴くんですけど、父はAMで。ラジオに飽きるとシャンソンを流し始めるんです。シャンソンを聴きながら畳を作っています。シャンソンと言っても作業場で流しているのは日本語で歌われているものですが。

平本 なかなか面白そうな作業現場ですね(笑)。日本のシャンソンを聞きながらということは、反対に畳を海外に持っていったらバランスが取れそうですね、取れないですかね(笑)。

そのような畳を海外、ヨーロッパに売り込むようなことはされていないのですか?

巻山 やっている業者 畳屋さんは結構いると思います。ただ、部屋の寸法に合わせてとなると、日本から職人を呼び寄せることが必要になりますね。長方形、正方形の置き畳なら輸出するだけで済みます。海外にアピールすることは面白そうだと思ってます。

平本 海外の人が畳に興味を持ってくれるという動きは実際にあるんですか?

巻山 知り合いの畳屋さんがジャパン エキスポ的な披露する場で、畳を紹介する為にアメリカへ行ったという話は聞きました。畳自体の文化は海外だと台湾に少しあるようで、東南アジアにはゴザがあります。

ミニ畳みたいな小物は海外にも受けるんじゃないかなと思って、今構想しているところです。この間も友達を呼んでワークショップを開いて、簡単なものを一緒に作ったりしました。クラフトをネット販売する大きなサイトが海外にあるので、私もやってみたいですね。

平本 知り合いが雑貨店をやってたりするので、日本の商品を海外でも取り扱ってくれとという問い合わせがすごく増えているようで、実際に以前インタビューした陶芸家の方はネットで海外と繋がって、今年イギリスで個展を開くようです。ネットで新たに日本の文化を知ってもらうことで、日本でも注目されますし、すごくいい機会になるだろうと思いますね。

巻山 そうなんですよね。子供なんかも結構反応に素直で、今は建て売りやマンションでも和室が無い場合が多いので、そういうところで暮らしている子供がウチに来ると畳をすごい気に入ってくれるんですよ。この間も「家にも畳の部屋が欲しい」って泣きながら帰っていった子もいますし(笑)。やっぱり体で感じるんでしょうね。フローリングのみの家で暮らしている友達も、ウチに来るとやっぱり畳が良いと言ってゴロゴロしてます。

平本 体の感覚に素直になるとやっぱり畳の心地よさは感じますよね。

巻山 そうですね。どうしても流行のものを家にも取り入れたいと頭だけで考えて、洗脳されがちになるので、どうして体で感じる方を優先しないのかなと考えます。お子さんとか生まれるとやっぱり畳欲しいなって言われる方は多いんですよ。ただ、畳を取り入れるとなると値段が高くなるのも事実です。マンションを買う時もオプションで払わないと和室が作れないんですよ。

平本 ついこの間までどの賃貸でも和室は一部屋ありましたね。

巻山 そうですね、もう少し遡ると和室、和室、洋室という具合に和室がベースでしたから。今はどれもリビングはフローリングになってるので、畳の良さに気付いて!って思います。

畳の良さには海外の人も気付いてくれていますが、藁を使用しているか何かで検閲に引っかかるみたいなんです。持っていくとなるとボードの畳になります。和紙の表だと、多分検閲にも引っかからないと思うんですけど。

あとマンションだとコンクリートなので、畳が呼吸出来ないんですよ。だから日本家屋だからこそ畳も呼吸が出来、空気も循環するんです。

平本 その話は面白いですね。そもそも日本の建物に合うようにできている、海外でもすぐに使えるという訳ではないのですね。

コンクリートだとどうなるのですか?

巻山 湿度が高いような立地だとカビることがあります。藁床ではなくボードの畳でも藺草には空気をきれいにする作用があるそうです。でもやはり木造の日本家屋で敷かれた方が活かされますね。今の梅雨時には湿気を吸い取ってくれますし、冬みたいにカラカラな気候だと湿度を上げるような調整機能があって、なかなか良く出来ているんですよね。

平本 確かに畳の部屋は夏は涼しく感じ、冬は暖かく感じるので日本の気候の理にかなっていますね。田舎に夏帰ったときに、畳の部屋が一番気持ちよく昼寝ができるなあと小さい頃から感じていました。涼しいというか、スッキリしているというか。あれは畳自体のおかげだったのですね。

最後になりましたが、ここ大井町で最初、東(あづま)小路という飲屋街で撮影しましたけど、東小路は巻山さんにとってどういう印象なんですか?




巻山 東小路は子供の時からあるので、単なる飲屋街だと思っていたのですが、最近テレビや雑誌で注目されているのを見て、珍しいんだなって気付いたんですよ。結構色々なところの駅前が開発されて綺麗になってますけど、昔ながらの横町が残っているのが下町っぽくてそれが大井町の良さかなと思います。

平本 ああいう感じの場所って今は本当に見かけなくなりましたね。あの風景は残してほしいですね。居酒屋の値段も安いし(笑)。

巻山 そうですね(笑)。下北沢も皆綺麗になってしまい、大井町も将来無くならないか心配です。友達が大井町に来た時は東小路は見せたいと思っている場所なんですよ。あと駅前にスーパー銭湯が出来たので、結構皆電車に乗って遊びにくる人が多いようです。

平本 都市開発と同じように昭和感がどんどん無くなりつつあるから、逆に大井町のような場所に昭和感を求めに皆来るのかもしれませんね。実はこのあと、東小路に飲みに行きたいなと思っていたりします(笑)。

今日はありがとうございました!


巻山 春菜  / Haruna Makiyama

和光大学表現学部で仏教美術などを学ぶ。在学中は勉学のかたわら、サークル活動で野菜作りに関わる。卒業後は、アルバイトをしながら、椅子張り職人に短期弟子入りしたり、熊本のい草農家を訪ねるなどして、自分の進むべき道を模索。2007年5月、千葉県の畳店に弟子入りし、2年ほど通って技術を学ぶ。
2009年7月より実家の巻山畳店で畳職人として仕事を始め、現在に至る。

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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