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東京を巡る対談 月一更新

大山エンリコイサム(美術家)× 平本正宏 対談 そぎ落として現れる根源からの未来



<作品の仕上がりがスタートライン>

平本 年に1枚CDをリリースをしているんだけど、CDを作ることが自分にとって大きな変化をもたらすフィードバックになっていると思うんだ。CDを作ることって結構パワーを使うんだよ。だって、YouTubeやSoundCloudとかネット配信的に音楽を発表するのが当たり前の時代に、CDという時間のかかるメディアをわざわざ使うわけだから。しかもCDにするとお金がかかるし、営業とか作曲や制作以外のことも沢山しなくてはいけない。だから相当ポテンシャルの高いものを作るわけ。

そうするとマスタリングっていう音の最終行程を終えたときには最高傑作って思うの。それくらいパワーがあるものに仕上げているから、嬉しくって何回も聴く。マスタリングからCDのリリースまで1カ月半くらいあるからそのあいだに聴きまくる、100回とかそれくらい。そうするとね、リリース日頃には新しいアイディアが出てくるんだよ。最高傑作と思ったものを作ったからこそ、それを聴いたからこそ、新しいアイディアが出てくる。その新しいアイディアは絶対にリリースしたその作品よりも面白いと思うの。で、今度はそっちを出したくて仕方なくなる。『TOKYO nude』のときなんかは、新しいアイディアの方が面白過ぎて『TOKYO nude』を出したくないと思ったくらい(笑)。でも、それを作ったからこその新しいアイディアだし、そこは否定してはいけないと。

そういうパワーを注ぎ込んでアウトプットしたからこそ自分を客観的に見れるし、それによってアイディアが生まれたり考え方が変わったりする。その変化こそが面白い表現を生むし、自分の変化が楽しみで仕方ない。

大山 ぼくの場合、それに近いことが文章を書くときにあるかもしれない。文筆って、字面や語のリズム、漢字・ひらがな・カタカナの配分とか、ヴィジュアル的な側面にもすごく気を使うんだよね。編集者からゲラをもらって校正して、最終的な形にして終わらせるわけだけど、雑誌だったら脱稿から発売までしばらく間があったりする。そのあいだにやっぱり直したいところが出てきたり、終わりなき修正欲が出てくるんだよね(笑)。

平本 その感覚って作品にもある? ぼく、作品に対する修正欲って全くないのね。修正したいと思うレベルじゃダメだと思っているから、そういう可能性がないくらいに仕上げてしまう。ただ、修正欲は出ないけど、新しいアイディア、その作品を否定するくらいの面白いアイディアが出てくる。

大山 難しいところだけど、作品はひとつひとつ1回性のものだから、修正するっていう発想はあまりないかもね。それよりも次に行きたいってなるかな。

平本 そうでしょ? それならこの最新作(FFIGURATI #20、#21)を作ってみてどんな感じなの、いま?

大山 このスタイルでもう何点かつくりたいと思っているよ。まだ2枚しかかいていないから。たとえばこの同じスタイルを1~2年続けてみて、そうしたら自分のなかで変化が出るかもしれない。ものによるけど1枚の絵をかくのに1カ月くらいだとしたら、制作のサイクルで言うと平本くんにとっての1曲みたいなものだと思うんだよ。アルバムだと1年とかそれくらいかかるわけだよね。アルバム1枚のために1年かけて10曲作るとして、そのなかで変化が起きるということだと思う。ぼくも何枚もつくって個展したり、発表していくなかで、少しずつ変化が生まれてくるという感じかな。

平本 そういったことでの変化って今まである?

大山 なにかが劇的に変わったというようなことはあまりないかな。これまで話したように、クイックターン・ストラクチャーをさまざまな条件でかきだしていくというその変化はもちろんあるし、立体作品なんかは実験的なことをやっていたりもする。でも全体として、ひとつのヴィジョンで結びついてもいるから、今までやってきたことがすべて切り離されて、まったく新しい状況に突入するというようなことは今のところないかな。

平本 じゃあ最後に、中目黒を選んだ理由は?

大山 ぼくは主に東横線沿いで育ったんだけど、小中学生のときは中目黒って通過点でしかなかったんだよね。それが2000年前後から中目黒が盛り上がりだして、ストリートカルチャーの発信地のひとつにもなった。となりの祐天寺は庶民的な町並みだし、中目黒のなかにも銀座商店街とか古いエリアが残っていたりする一方で、渋谷・代官山・恵比寿とかの流行とも連動していて。その多面的な雰囲気が好きですね。個人的には、自分の育った地元エリアと、渋谷や原宿なんかの流行エリアの接地点というイメージもあったかな。

平本 なるほど、いい締めになりました。

やっぱりさ、なんかふたりでやってみようよ。クイックターン・ストラクチャーに対してなにかぼくがアプローチしたいっていう欲は結構あるよ。アイディアは全く思いついてないんだけど、だからこそ音楽っていうところすら最初は設定しないでアプローチしたりとか。

大山 そうだね。もっとコンセプチュアルにいろいろ広げていきたいですね。

平本 じゃあ、今後ぜひ!


大山エンリコイサム(美術家) Oyama Enrico Isamu Letter

1983年東京生まれ。「クイックターン・ストラクチャー(Quick Turn Structure)」という独特のモチーフを軸に、ペインティングやインスタレーション、壁画などの作品を発表する。また現代美術とストリートアートを横断する視点から、批評活動やシンポジウムへの参加も並行して行なう。2011年秋のパリ・コレクションではCOMME des GARÇONSにアートワークを提供するなど積極的に活動の幅を広げている。主な展示に「あいちトリエンナーレ2010」(名古屋市, 2010)、「Padiglione Italia nel mondo : Biennale di Venezia 2011」(イタリア文化会館東京, 2011)、「Still Spot」(スカイライトギャラリー, ニューヨーク, 2012)など。共著に『アーキテクチャとクラウド―情報による空間の変容』(ミルグラフ、2010)、論文に「バンクシーズ・リテラシー――監視の視線 から見晴らしのよい視野にむかって」(「ユリイカ」2011年8月号、青土社)など。アジアン・カルチュラル・カウンシル2011年度フェローシップ (ニューヨーク滞在)。

10/6まで銀座のTakuro Someya Contemporary Artで下記の2人展開催中!
http://tsca.jp/ja/exhibition/physical-kinetics/

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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