document

東京を巡る対談 月一更新

會本久美子(イラストレーター)× 平本正宏 対談  手先からこぼれてくる<絵>と<音>と

<わくわくする気持ちが集中力に>

平本 作曲している時って作り始めの瞬間が一番楽しいんです。新しい曲を書く意気込みがありますし、頭の中でこういう風にしようという構想や願望がある。それで作り始めた15分くらいはそのテンションで行けるんですけど、その後から現実に直面してそんな簡単にはいかないぞと腹をくくる。ここからが本当の意味での作曲スタートになります(笑) 。

會本 わかります。こうしようとか、こうしたらいいなというポワーンとした時が一番楽しくて。結局完成させなくてはいけない時はきついですよね。

平本 本当はバシッとそのままできて、いつも2時間くらいで終わると嬉しいんですけどね。終わらないですよね。

會本 似ていますね(笑)

平本 集中力の持って行き方とかどうしていますか?

會本 う~ん。それは目下の課題ですが・・・楽しい、やりたいという気持ちがあまりないまま始めてしまうと、集中力もあまりなく結果的に描き進められなくなることがあります。やっぱり、モチーフやテーマを選んで、それに対するわくわくする気持ちを元に進めると集中力が続きますね。好きなものを描く時はすごく集中できます。最初にぱっと降りたインスピレーションや衝動が、日常や必要作業によってかき消されないようにしたいとは思っています。

平本 この前吉祥寺の「にじ画廊」で個展をされていましたが、あのときのモチーフはどうされたんですか?

會本 私自身がモチーフをトランプに選びました。トランプの持つ独特の世界観が自分に合うと思ったんです。スペードやダイヤとか、それだけですでにかわいいからやってみたかった。トランプ自体は1カ月くらいかけて作って、すでに販売開始していたんです。トランプの原画展でしたのですでに原画はあったのですが、展示するとなると、また見返して気になって。手直ししたり描き直したりして・・・展示作品は2週間前くらいからラストスパートで。時間はあったのですが、結局いつもそれくらいから本腰を入れてやることになってしまうんですよ・・・。

モチーフへの愛着はすごく大事で、以前に仕事で結構コンサバな洋服を描かなくてはいけないことがあったのですが、それがどういう服かあまり知らなくて、深く愛していないから描くと全然かわいくなくなってしまった。何回描いてもかわいいとか素敵という感じにはならなく、難しかったです。


「にじ画廊」で展示されたトランプ

平本 そういった自分が全く普段愛着を持たないものを仕事で要求された場合は、どうするんですか? なにか秘訣のようなものはありますか?

會本 仕事ではあまり要求されないので大丈夫です、皆分かってくれているので(笑)。でも、やるときになったら自分の得意な方向、好きな方向に変えてしまいます。

平本 結局そのコンサバな服の結末はどうなったのですか?

會本 相手の方に写真などを用意してもらって、かわいいと思えるまで描きましたけど、大変だった。

この話に通じるのですが、例えば、普段から料理をする人の描くお鍋の描きかただったり、植物に囲まれている人の描く植物、 毎日香水をつける人の描く香水瓶だったり。

同じものを見ても見え方は違っているはずだから。このお鍋をこうやっておいた時の表情が好きなんだ、とかあるんじゃないかな。それが絵に出ちゃうからこの人これが好きで仕方ないんだなあって、わかる。

それに料理する人、香水をつけるひとの手先が生み出す線というものがあるだろうと思います。

そういうのを描きたいですね。

平本 仕事で曲を作る時に、自分が普段作らないような曲を要求されることもあります。そういうときって、与えられたからこそどういう風に作っていけば自分にとって愛着のあるものになるかを考えながら作ってみると、結構深く分析したりしてそれをきっかけにそういった音楽の技法を獲得できたりする。

例えば、少女時代やPerfumeなどのガールズポップを作れないかと頼まれたことがありました。少女時代もPerfumeもピアノで弾いて遊んだりしたこともありますが、そこまで聴き込んではいない。で、それをきっかけにすごく集中して聴いてみたんです。そうしたらリズムの組み方、曲の展開、音の鳴らし方など面白い部分がどんどん見えてくる。結果、その曲もいいものになりましたし、音を聴くポイントがまた一つ増えました。

こういう機会って僕にとってはありがたいんです。

會本 そうですよね。仕事では色々なものに出会えて、思いもよらない方向が見えてくる。

1 2 3 4 5