會本久美子(イラストレーター)× 平本正宏 対談
収録日:2012年5月12日
収録地:吉祥寺 softs
対談場所:カフェアマル
撮影:moco
<不思議の国にある日常>
平本 會本さんの絵を初めて拝見したのは、吉祥寺の居酒屋「にほん酒や」さんにデザインされた徳利でした。店長さんに伺ったら、會本さんの名前を教えて頂いたんです。
徳利に書かれている絵は、細い線で描かれていて、懐かしい感じもするし、異空間の出来事のような感じもする。よく見ていると聞いたことのない音がその絵の世界で鳴っているような印象も受けまして。
家に帰ってすぐにウェブサイトを拝見させて頂いて、いくつか掲載されている絵を見ました。特に印象的だったのは、サイトでも大きく使われているスカートをはいた女の子の赤と緑を使った絵で、不思議の国のような印象を受けたのですが、決してミステリアスとかSFといった積極的な異世界な感じはしませんでした。なんというか、不思議の国にある日常を見せてもらっているような印象です。生活感や日常性を感じるのだけど、ちょっと自分たちの世界とは違うのだなと思いました。
今日はですね、1人のファンとして、純粋に會本さんがどういう風に何を思って絵を描いているのだろうということを知りたいと思っています。
そもそも、あのような絵に至った背景、きっかけはどういうものでしょうか?
會本 絵を見ていただいた時に音を感じる・・・というのは嬉しい感想ですね。そしてここではない世界で暮してる人たちの日常みたいだ、っていうのも。
自分では そこまで意識的ではなかったですが、たしかにそういうことが表現したい、という部分があります。だから平本さんが 、いまお話し下さったことがすごく嬉しく思います。確かにそんなに突拍子もないところには行きたくないというのもあるし、かといって現実のところを描きたいというのでもない。「あこがれ」の世界に、自分が持っている感覚で行ってみる・・・?というかんじでしょうか・・・。自分の身体を通ったもの、というか、自分の身体を通して感じたことを表したいんだけど、シチェーション自体は架空の場面だったりが多いです。あこがれの場所にじぶんを置いてみる、という感じなのかな・・・。
そんな感じです。どういうきっかけだったかなあ。
平本 絵を描き始めたのはいつごろなんですか?
會本 子供の頃から絵は好きで、1人で絵を描いていれば満足という子供でした。育てやすい子供だったと思います。3人姉妹の真ん中ですし、親もほっときがちだったんじゃないかと・・・。
描くものも、女の子やお姫様といまとあまり変わっていない気がしている。他の子よりも絵を描くことが好きでした。1人で絵を描いたり本を読んだりしているのが好きだった。『グリム童話』とか『日本昔話』とか『アラビアンナイト』とかの本のセットが家にあって、それを繰り返し1人で読んでました。それを絵にしたり。その延長線で現在も絵を描いているという感じです。
平本 なるほど。ということはずっと小さい頃から絵は書き続けていたんですね。そこから専門的に絵を描こうと思ったのはいつ頃なんですか?
會本 高校を卒業して専門学校に入った頃から意識して描くようになりました。ただ、専門学校に入った時はデッサンもしたことがなくて何も知らなかった。他の子はすごく色々なことを知っているし、描けるしで。私は絵の具も学校でもらった24色のものしか持っていなくて、他にも沢山色があることを知らなかったくらいでした。本当にあまり変わらずにきたんです(笑) 。
学生の時は何が個性か考えて、皆が個性的にみえるからどうしようと思って個性を出そうと悩みましたけど、結局は最初に戻って来ました。
子供とか女の人のしぐさとか、布とか服とかそういうものを描いてきた。対象のことをすごく好きでないと描けない。いや、もちろん描けますけど、なんか「描けてない」っていうか・・・。
平本 対象が小さい頃から変わらず、自分のすごく愛着のあるものだということは、絵を描くにつれてその対象を深く見るようになっているのでしょうか?
會本 あ、たぶん、その愛着ある対象を深く見始めたから、その絵を描く、と言ったほうが良いと思います。あたりまえ、というようなことだけど。
子供の時、移動中の車の窓から見えた看板の絵やロゴを見ては、目にした文字のどれがかっこいいか、とか色の組み合わせ、どの色を混ぜると一番きれいか、を考えたり、自分の中でどの色とどの色の組み合わせが一番きれいだと思うかランキングを考えたりする遊びをしていました。自分ではそういうことを考えているのが普通だと思っていたのですが。