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東京を巡る対談 月一更新

ケン・キャプラン(三田アーツ・オーナー)×平本正宏 対談 今に生きる浮世絵スピリット

<消え去る者と残る者>

平本 3、40年前にはいくらかの値段がついても、いま全然値段がつかないということもあるんですか?

キャプラン もちろん。音楽だってそうですよね? たった数年で忘れられる曲がほとんどですけど、何百年も前のモーツアルトがいまでも聴かれるのは、やっぱりクオリティですよね。いいものはどんどんどんどんよくなるし、残るし、中途半端なものはどんどん消えていく。

平本 モーツアルトの時代でもモーツアルト並みに売れている作曲家がいるんですよね、サリエリとか。でも消えますよね。

キャプラン どのアートのムーブメントも何千人、何万人と参加するけど、でも3人くらいしか残らない。

平本 そうですね。音楽も100年で数人ですね、残る人は。そうなるといまのムーブメントも何10年と経った後に本当のクオリティで生きる生きないが決まる部分があるということですかね。

キャプラン やっぱり時間がかかりますよね。ちゃんと評価が定まるまでには、学術的なこともありますし。だから僕が扱っている作品は、作家が亡くなって100年、200年と経っているのである意味楽なんですね、アーティストの一生がわかるので。でも、いま20代、30代、40代のアーティストがこれからどうなるかは誰にもわからないですね。これからよくなっていくのか、それとも衰えていくのか。

それで、10000人に3人くらいが残るとしたら、この3人を当てるのは至難の業ですね。運もトレンドもあるので。だから、コンテンポラリーの作品を買っている人は、その作品がよっぽど好きじゃないと買えないと思います。99.9パーセントは将来0になると思いますので。

でも、不思議なんですが、投資とかでなく自分が好きでその作品を買うと、何気に上手く行くんです。儲けようと考えると損をします。その作家の名前とかでなく、ピュアなハートで自分が本当に欲しい作品を買う、それが買った後で0円の価値になっても関係ない、ずっとこの作品を見ていたい。そういう風にして作品を選んだ人は、なぜか幸運なことが起きるんですよ。本当に不思議です。

平本 なるほど。なんか理屈じゃないですけど、感覚的にわかる気がします。自分が好きになったものをなんとか手に入れたい、それを他人がどう評価するかではなくて、本当に自分の側に置いておきたい。そうやって愛した作品を買うことと、儲けを考えて買った作品では、買った人の満足感が違いますよね、絶対に。

キャプラン ジョー・プライスさんは18歳のときに、ニューヨークで若冲の作品をたまたま見つけて。あの時代って、日本語なんか皆読めないどころか、日本人にあったことすら無い。そうなるとサインを読んだり、それが誰かなんていうところは見ていない。浮世絵も同じです。ただただ作品が素晴らしいから買っている。

ヴィトンとかエルメスとかみんなそのラベルで買っていますけど、プライスさんや19世紀終わりに浮世絵に反応した人たちはそこは全くわからないので、作品がいいから買っている。そういう人は目利きになるんです。そして、上手くいくんです。

平本 音楽も同じことが言えますね。世間的に評価が高いとか、雑誌に載っているとか、ツイッターで話題とかそういう他人の反応がいい音楽だから聴くというよりは、自分で探してきて自分で好きになった曲だから聴くという方がよっぽど楽しいと思います。

キャプラン その通りだと思います。どんなにいいアーティストでも全部がいいというわけではありませんし。ただ、人間ってどうしてもラベルがあった方が紹介しやすいですよね。このアーティストだったらどの作品もいいんじゃないかとか、先入観が働きます。でも、ピカソでもひどいものありますよ。ゴッホもいくらでもありますから。

平本 そうですね。作曲家も作品や時期によって良かったり悪かったりで、全部すごいというのはありませんね。バッハやモーツアルトはかなりいい曲の割合が多いと思いますが、それでもイマイチな曲はあります。聴く人がみな、自分の判断で聴いたらまた違うなと思います。

キャプラン ただ、普通の人は自分の判断に自信が無いですから、このアーティストだったらとか、有名なアーティストだからとかなってしまいますよね。シャネルとかエルメスとかを買いますが、京都の職人のものには興味を示さなかったり。でも、みんなが目利きになったら、日本のものの方が優れているっていうことがどんどん評価されると思います。海外では日本のものはとても評価が高いので、日本人が日本のものを過小評価しているだけだと感じます。

平本 最後になりましたが、神保町という街についてはいかがですか? 今後の展望などもありましたら教えて下さい。

キャプラン 神田っていうのは昔から江戸の下町なのでそこに画廊があるというのは意義があることだと思います。ただ、周りの人は代々の人が多くて、絵を過小評価していると感じます。古典的な感じがしてしまうので、いま青山の骨董通りでお店を探しているんです。来年、20周年の節目に南青山に画廊を出したいと思っているんです。

平本 移転されるのですか?

キャプラン 神保町の画廊と両方です。浮世絵を新しい風に紹介していかないと衰退していってしまいますので。絵を扱っている以上、プレゼンテーションって大事だと思うんです。何でもそうですよね。例えば、この平本さんのCDジャケットだって全部プレゼンテーションですよね。中身が素晴らしくて、プレゼンテーションが素晴らしかったらすごくいいと思います。美術品も美しいものなので、売る場所やプロセスがとても大切だと思うんです。

どんな仕事も時代によって進化させていかなくてはならない。来年は20周年ということで、また新たなチャレンジをしていかなくてはと思っています。それをやめた瞬間に衰えちゃうと思います。それは作っている人も、扱う人も同じですね。

そして、日本の文化の未来、美術品だけでなく着物や焼き物、料理などすべての日本文化の未来は明るいと思います。クオリティがとても高いんです。例えば海外のシェフもどこの料理が一番かと言えば日本の寿司を挙げます。ロブション店内のカウンターは、寿司屋のカウンターをヒントに制作されたそうですし、服も音楽も映画も評価がとても高いです。いいものは絶対に残りますし、日本は経済的にいまちょっと衰退していても、文化的なものはどんどん発信していくんじゃないかと思っています。

浮世絵もその波に負けないように、新しくアレンジしてカッコいい場所で、若い人に浮世絵の良さを伝えていきたいと思います。

平本 ぜひ青山の画廊も完成しましたら伺わせて下さい。ありがとうございました。


ケン・キャプラン(三田アーツ・オーナー) Ken Caplan

1969年 東京生まれ
1987年 セントメリーズインターナショナルスクール卒業
1991年 ブラウン大学卒業
1992年 三田アート画廊入社
現代表取締役オーナー

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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