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東京を巡る対談 月一更新

田中利樹(人工衛星研究者)×平本正宏 対談 宇宙が描き出す発想

<人間だけが受け継いでゆく目に見えないもの>

田中 たとえるなら、人間は子孫を残すことでつながっていきますが、ロボットがロボットを作れるようになったとしても、それは人間が子孫を残していくというものとは何か決定的に足りないものがあると思うんです。

宇宙開発も同じく、衛星を作るという工学を超えて、宇宙発というフロンティアの中で、美術大学との共同プロジェクトでやっていることが意味を生むと思ってまして、将来的にどういった意味をもっていくかということは見てみたいです。

平本 衛星の開発研究はいつ頃からしているんですか?

田中 大学の学部3年生のときからなので、大体6、7年ですかね。

平本 その中でこういう考え方が出てきたのはいつ頃ですか?

田中 2、3年目くらいからですかね。

平本 面白いですね。そういう考えが生まれたというのは。

実際に、多摩美の人たちと接していて、自分たちでは考えもつかないようなことや発想は出てきますか?

田中 そうですね。わーっとやった後でそういったものの積み重ねで、何か理論が出てくるんじゃないかなと思っています。だから、いまはプロジェクトに色々な人が関わっていて、それぞれの人が思っていることが違うと思いますし、始動して1年ほどしか経っていませんので、3年後くらいに見返してみて、筋が見えるといいなと思っています。僕自身、いまこう変わってきたとか、こういうことに気づいたということを言葉にはまとまっていないです。

あと、こう進めなきゃいけないというのを決めないで進めています。

曲も同じだと思いますけど、もの作りをしていると、段々自分が想像していない方向にいたりするじゃないですか。そういう感覚でプロジェクトをやっているという感じですね。

平本 最初から作りたい方向というものがあって、それ通りに制作が進んだときよりも、思いもしない方向に興味が行って、結果自分が最初考えもしなかったものができたときの方が、面白いし、不思議といいものになっていることが多いですよね。

田中 そうなんです。人が紙に書いて考えられることってすごく限られているし、その段階では10人考えると10人が似ていると思うんです。でも、もの作りやプロジェクトを進めていくと、たまたまモノ自身に引きずられて違う方向に行ったときに、はじめて考えていたことをちょっと超えて違うものがでてくるはず。そうなればいいなというのがこのプロジェクトにはあるんです。

平本 なるほど。最初考えていたことが色々な起点というか、色々な事象が起こることで思いもしない方向にどこまでいくかというのが大事なのですね。

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