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東京を巡る対談 月一更新

田中利樹(人工衛星研究者)×平本正宏 対談 宇宙が描き出す発想

<複雑系に見出されるシンプル>

平本 人工衛星からは少し離れますが、宇宙への思いはいかがですか? それこそ20歳くらいのときから、宇宙工学の分野を志されたようですが。

田中 宇宙を選んだのは自分が関われる分野がどこまで広いのかと思ってです。僕がこの分野に行こうと思ったとき、ちょうど10年前くらいですが、宇宙工学は最先端というか特殊な分野で、この分野に僕はどこまで関われるのだろうかと思って、まずは宇宙業界に身を置いてなにができるかを考えてみようと思ったんです。とりあえず乗り込んだというか。

だから、木星が好きだとか、宇宙少年とかそういうのではなくて。手が届かないところへの興味というか。なので、この質問受けるといつもどう答えようと悩むんですけど(笑)。

平本 宇宙工学っていう分野を理解できていなくて申し訳ないのですが、この分野は未知の部分を追求することが多いですか?

田中 僕も最初はそういうイメージだったんですけど、宇宙開発は宇宙開発で結構方法論があるんです。地球で動くロボットと宇宙で動くロボットの差は、宇宙だと真空だとか、太陽の熱が高いとか、放射線が高いとか、そういった差はあるんですけど、その1つ1つは技術論で対応できるので、もの作りしている感覚はそれほど特殊な印象は無いんです。

大学でも研究、開発できるというのはそういうことがあるからでもあるんです。

平本 この前、宇宙環境での実験をしているというのを田中さんがfacebookに掲載されていて、宇宙って真空だから音も無いし、人間の体に対しては結構な変化を強いますよね。そういう変化をどう想定するかって結構難しい印象があるんですが、それも対応できちゃうんですね。

田中 多分、一番最初に宇宙にロボット持って行った人はすごいギャップがあったと思いますね。いまは宇宙開発自体はかなりデータがそろって方法論ができている状態ですね。ですので、航空宇宙工学科に入れば勉強できてしまうほどです(笑)。

ただ、僕の作っている衛星は地球の周りの宇宙を回っているわけですけど、もし太陽系を出るとなるとまだ未知の領域もあるのではないかと思います。

平本 そういって宇宙を捉えて行く作業というか、宇宙がどういう風でどう対応して行けばいいかということは年々情報が集まっていますよね。それこそ、素人の僕ですら、「ニュートン」や「日経サイエンス」を読めば、ここまで進んでるんだと実感できるくらい。地球の周りを太陽が回っていると思っていた時代から数百年でダークエネルギーの存在までわかってきた。

ただこれは完全に素人考えですけど、年々解明されてその様相が複雑に捉えられて行く宇宙に対して、なにか違和感を感じたりもするんです。音楽の良さを、周波数と音圧の変動など物理現象で解明しようとしている印象というか。別の視点で見たら、とてもシンプルに見えるんじゃないかなと思ったり。

田中 何となくわかります。科学って観測を元に積み上げてきた文化で、物理現象の方程式でもそうなんです。もしかしたら宇宙をもう1次元上から見たらきれいに整頓できるのかもしれません。逆に、現象を分子で見て行くと、式では表せなくて、確率分布などが出てくる。そういう意味では式の概念すら昔から変わってたりしますが。

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