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東京を巡る対談 月一更新

田中利樹(人工衛星研究者)×平本正宏 対談 宇宙が描き出す発想

<人工衛星の次に目指すもの>

平本 人工衛星以外の外の宇宙に対してアプローチを考えられたりはしますか?

田中 多摩美のプロジェクトが上手くいったら次は深宇宙かなと思ったりはしています(笑)。 地球を離れてっていうのは面白いと思っています。

平本 小型人工衛星の「ほどよし」プロジェクトにも参加されていますが、そちらはいかがですか?

田中 こっちは人工衛星を飛ばすだけでなく、企業との連携をはかってインフラ整備まで視野に入れて進めています。量産体制などを考え、民間資本で宇宙産業を行えるような仕組みを作ることもプロジェクトに入っているんです。こちらも重要な意味があると思います。

平本 民間利用というのは?

田中 例えば、環境の変化を利用した新薬の開発だったり、宇宙空間を使った広告など、民間企業がやりたいことをするために、宇宙をもっと身近に利用出来るようにしていくことです。いくつか予定していますが、色々なことをやってみて、新しく開ける分野があればそこに市場ができるのではないかと思っています。

平本 前回のケン・キャプランさんとの対談でも話したんですけど、クラシック音楽、現代音楽の歴史って1960年代には終わるんです。で、その終わる時期って、日本の雅楽やインドネシアのガムランに影響を受けた作品などが出てくるんです。これは、情報が色々と集められるようになったということと、移動が簡単になったということが大きい。1800年代、明日からインドネシアに旅行して音楽を聴いて来ようなんてことはできなかったですけど、現在は簡単ですよね。

移動手段の簡易化や情報のスピードは、作るものに大きな影響をもたらします。だから、人工衛星が民営化して距離が近くなると、その影響で1つの文化ができる可能性が大きくあると思うんです。だから最初は直接的であったり、広い意味で利益のあるものに使用されると思いますが、その距離感が縮まると芸術的なアイディアだったり、芸術に変化をもたらすことも沢山出てくると思います。そういうものって見てみたいですね。

人工衛星が身近になったからこそできた芸術なんてなんかカッコいいじゃないですか、ヤマハあたりが協力して(笑)。

田中 このプロジェクトをはじめて色々な企業にプレゼンしに行ったりしましたけど、割と新しいことに取り組んでくれるところがあったりしました。

平本 ヤマハ行ってみた?

田中 まだですね(笑)。

平本 ヤマハ行ってみて(笑)、コルグとか。楽器会社は楽しんでくれると思いますけどね。アップルもいいんじゃない? 口出し過ぎ(笑)?

最後に、新宿のバスターミナルを選んだ理由は?

田中 僕、東京がホームという感じがそこまでしなくて、来ている場所という感じがするんです。神戸出身なんですけど、はじめて来た東京が新宿で、深夜バスでよく行き帰りしていたので。やっぱり東京は東京にしかないものというか、新しいことが起こるイメージがあります。

平本 じゃあ、やりたいことをしに来ているっていう意識が強いんですね。ホームタウンにはならなそうですか?

田中 こっちに来てもう10年くらいになるんですけど、なかなか暮らして行くイメージはないんですね。

平本 でも仕事でアメリカとかに行ったら、「いやー新宿は良かったな」とか言うかもしれない(笑)?

田中 あはは。そうかもしれません(笑)。

協力: 三好賢聖


田中利樹(人工衛星研究者) Toshiki Tanaka
1986年生まれ。東京大学 超小型衛星センター 研究員。東京大学大学院工学系研究科
航空宇宙工学専攻修士課程修了。超小型人工衛星PRISM(東京大学・中須賀研究室
2009年打ち上げ成功)をはじめとし、これまでに複数の超小型人工衛星開発プロジェ
クトに参加。
ARTSAT:衛星芸術プロジェクトでは、プロジェクト・マネージャー(機体開発責任
者)を務める。

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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