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東京を巡る対談 月一更新

Tekna TOKYO Cyclone 1 / 平本正宏「Tekna TOKYO Cyclone 1を終えて」

(続き)
で、そのライブ終了後、レーベルの設立とCDのリリースを考えはじめ、動き出しました。ただ、何をしなくてはいけないのかとか、どうすればいいのかとか、ノウハウをまったく知らなかったので、とにかく詳しい人に話を聞きに行って。

当初は、「TOKYO nude」の<movement>だけをリリースする予定でした。でも、リリースに向けて動いているうちに、どうせリリースするならもう少し曲をつけ足そうと考えるようになった。<movement>の続編、という構想が湧いてきて、ちょうど作りはじめたときに、Flying Lotusが「Cosmogramma」をリリースしてビックリしちゃって(笑)。さらに、クリス・カニングハムの映像作品を同時期に見ていたことも相まって、最初のアイディアと全然違うことがしたくなりました。

ちょっと話を戻すと、<movement>はリゲティの作品に対する、僕なりのオマージュでもあるんです。芸大に入学してすぐのころ、彼の音楽に魅せられて、大学、大学院とリゲティの「アトモスフェール」や「レクイエム」などのミクロポリフォニー/クラスター作品を追いかけていたようなところがあった。ですが、追いかけつづけるのではなく、ここら辺でひとつ、自分なりの答えを出しておこうと思っていたことと、<movement>を作ったことがパラレルになっています。

そういうわけだったから、ただ<movement>の続編を作るよりは、そこは区切って、別のことをしようと。Flying Lotusやクリス・カニングハムの音に接していると、だんだんカット・アップの手法に興味が出てきて、それを東京の音で突き詰めてみようと思うようになりました。音も<movement>のままでは面白くないし。ちょうどそのとき、Melodyneというソフトウェアで、音をフリーズさせることができると知りました。早速、東京の音を読み込んでフリーズさせてみたら、面白い音になった。フリーズさせているわけですから、グリッチ要素が音に表れてくるんです。そのグリッチをうまく使えないかと考えて、作りこんでいったら、<moment>ができました。7月あたりから作りはじめ、何度もボツにしたりして、12月半ばに完成したんだったと思います。

結局<moment>はグリッチとカット・アップ中心の曲群になりました。序章的な<moment0>を除けば、前半6曲のどれもだいたい10セクションで構成されています。リズムはあるにはありますが、それをできるだけ持続させず切断する方向に持っていった。あと、<moment6>なんかは、<movement12010>と似るように意図的に作りました。方法論が違っても、似た音色にたどり着けることを示しておきたかったのと、1枚のアルバムのなかで「東京」のループが起きるようにしたかった。

これでアルバムの曲が揃ったので、サイデラ・マスタリングの森崎雅人さんにマスタリングをしていただき、リリース準備を開始しました。レーベル名も「Tekna TOKYO」に決まり、ディストリビューションはdiskunionさんにお願いして。途中で地震が起きてしまって、発売がどうなるか分からない時期もありましたが、なんとか4月27日のリリースにこぎつけました。

リリースした以上は、リリース・パーティをしなくてはならない(笑)。レーベル運営って大変です。リリースの2日後にパーティの日程が6月30日に決まって、イベントの名前もまさに「Tekna TOKYO Cyclone 1」(以下、TTC1)と決まりました。

実は<moment>を作りながら、映画監督のヤング・ポール君に映像の制作を依頼していたため、リリースの1か月前に映像はほぼ完成していました。なにかライブの際に映像が欲しいなと思っていて、昨年、<movement>を作り終わったあとに映像のアイディアを探していました。もちろんまだそのときは、<moment>の原形もなかったので、本当に漠然とですが。

その同時期にギャスパー・ノエ監督の「エンター・ザ・ボイド」という映画を見て、衝撃を受けた。自分にとって2010年といえば、この映画に尽きると言っていいくらい。この映画に触発されて、東京のあらゆるところの情景を断片的に繋いでいく映像作品のイメージが浮かび、そのイメージを温めているうちに<moment>が完成に近づき、そのアイディアと<moment>を結びつけてみようと思うようになった。友人のポール君にアイディアを話してみたら、まあやってみましょうという流れに。それで3月末に映像が完成し、絶対TTC1で使えると確信しました。ライブに合わせて、少しだけ修正もしてもらいましたが。

いざTTC1を終えてみると、まず「TOKYO nude」に関して、映像でもう少し遊んでみたいという考えが芽生えています。映像のフッテージの種類を多様化して、盛り込んでいきたいという考え。そして、インスタレーションみたく美術作品として展開できないかという考えもある。

音楽にも、次の作品にすぐにでも取りかからなくてはなと思うようになっている。いま考えていることですが、次の作品も<moment><movement>同様の2部構成にして、「TOKYO nude」と合わせて全4部構成にし、小さい規模のオペラや大型のインスタレーションなど、生身の人間をその場において展開できるようなものに仕上げられないかと思っています。東京という都市に、音楽への変換を施し、新しい都市を作り出すようなイメージを持っているのですが。これに関してはもう少し考えることが必要です。

いまは新しいアルバムの制作に取りかかっています。どうなるか自分でも楽しみです。

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