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東京を巡る対談 月一更新

Tekna TOKYO Cyclone 1 / 平本正宏「Tekna TOKYO Cyclone 1を終えて」

6)同じ質問の繰り返しになるかもしれませんが、「TOKYO nude」やTTC1といった枠を外し、作曲家/パフォーマーとして思い描く理想的なライブとは、現時点でどのようなものでしょうか。

パフォーマンスという意味では、演奏者が前に出て、音に対する何かの行為をしている姿を見せることが共通理解としてあります。そこにひと工夫加えて、お客さんと同じ音響的な位置に立ち、スピーカーと向かい合ってライブを行うのなんて面白そうじゃないですか。ダンスに音楽をつける際は、客席の後ろにブースを作ってもらい、そこでラップトップを駆使してるのですが、そのほうが客席に響く音を、責任をもって生み出せているという感覚が強いですね。そいうふうに考えれば、理想のライブは、広い劇場で前席と後席の間の通路にセットを組み、お客さんと同じ位置からスピーカーを聴きつつ演奏することに帰結します。ただそうなると、ステージに何も無くなってしまいますね、どうしましょうか(笑)。映像を流すだけだと、池田亮司さんがすでにやっていますし。うーん、考えます。

7)テーマを変えますが、「TOKYO nude」は、ご自身が身を置く生活環境と、作曲家のその環境に対する深い理解が滲みでている作品と言えます。自分の所属する環境を素材として使用するにあたり、楽しさや難しさなどは感じていらっしゃいますか。

まず、素材がごろごろ転がっている面白さ、それを強く感じます。いまこの刹那に変化している、東京という大都市をモチーフに創作し、自分が住んでいる場所自体が作品に直結していく不思議な感覚。少し環境音に耳を傾ければ、色々な発見があります。

反対に、自分が身近に接している場所であるからこそ、見えないかったり気づかなかったりすること沢山あります。ほかの地域のかたなら、東京を比較対象にできるので、僕と違ったものの見方ができているような気がします。

ただ、捉え方によってその姿を大きく変える街ですので、興味が尽きることはなさそうです。

8)アルバムが海外のリスナーにも渡っています。音楽に国境は無いですが、テーマには文化的な制約が発生すると思います。基となる文化を共有しない地域で聴いてもらうことについて、ひとりの表現者として感じることなど伺いたいです。

コンセプトや手法などを色々と考えていますが、基本的にはCDにする以上、音さえ聴いてもらえればいいというレベルまで落とし込んでいます。ですので、文化的背景や制作背景を越えて、国内・国外の区別なく、誰にでも聴いてもらうことができます。もちろん、興味を持ってくださったかたには、こういったインタビューや公開情報を見ていただければ嬉しいですが、やっぱり音楽であるからには、音が面白ければそれでいいと言える部分もあると思うので、何も考えずに楽しんでもらえれば。とにかくバイアスなしで、音に集中して聴いてもらいたいです。

9)誰もがそうですが、平本さんも、リスナーの立場から転じて表現者として日本文化に育まれてこられたかと思います。いま表現者として海外に求めるものを教えてください。

求めるものはすべて揃っているという印象を持っています。海外には、趣向や美意識の多様さがあります。それこそ電子音楽系のフェスが多くあって、アルス・エレクトロニカやソナー、トランスメディアーレなど大きな規模のものもあります。受け手の数の多さを感じるとともに、そこからインスパイアされる他の分野の人の多さと好奇心に感じ入ります。自分が提示した表現が、様々な影響を他に及ぼし、また自分も他のアーティストから影響を受けることを強く求めるような環境があると思います。だから、そこに身を置いて試したいんです。

コンテンポラリー・ダンスはやはり、ヨーロッパのほうが15年くらい先を行っていて、面白い作品が沢山生まれている。でもそのうち、ほとんどの作品が日本に来ない。いいものを見ることが、なにより自分の創作の糧になりますから、やはり海外へ行くという選択肢は常に頭の隅っこから離れませんね。

10)今後の予定については?

「Tekna TOKYO」としては、来年リリースに向けて2作品が動き始めています。

ひとつは、LOVE LOVE BANDでも演奏したメロディワークを形にしたもの。こちらは、歌、チェロ、ギター、ピアノをベースに、メロディとハーモニーを作って、あとはガシガシと音響的に加工していきます。オーケストラ・ソフトのVienna Instrumentsも使います。2006年からメロディのある曲は結構書いていまして、digi +KISHINのために作った曲がほとんどですが、結構いい曲が多いんですよ(笑)。ストックの曲をベースに、新曲も2、3曲足そうと思っています。ポップ・エレクトロニカとはまた違った音楽が提示できればと考えてい ます。

もうひとつは、「TOKYO nude」のネクスト・バージョンですね。こちらは先ほども少し話しましたが、都市の情報やその量的変化をピックアップして音楽にしていけないかという考えで、どんな作品になるか想像もつかない。ただ、言えるのは、「TOKYO nude」とは全く違った作品になること。こちらは試行錯誤中。

僕個人の仕事としては、10月5日に関わらせてもらったdigi+KISHIN DVDの最新作「Team KISHIN From AKB48『窓からスカイツリーが見える』」がリリースされます。篠山さんが撮りおろしたAKB48の映像のサウンド・トラックを作ったのですが、電子音はほとんど使わずにオーケストラからガーリー・ロックまで幅広くなっています。「TOKYO nude」しか知らない人はかなり驚くはず(笑)。あと、最後の2曲をオケで作っているんですが、かなり圧巻です。

それから、11月24、25日にメルパルクホールで行われる、振付家でダンサーの小尻健太君のダンス作品に参加させてもらいます。能楽師の津村禮次郎さんが創作された「トキ」という能作品をコンテンポラリー・ダンスに作り替えるというもので、現在稽古の真っ最中です。LOVE LOVE BANDに参加してもらった関口将史君にもチェロを演奏してもらいます。

また、 digi+KISHINの新作を何本かと、映像作品の音楽も作曲する予定です。

11)最後に、俗っぽいことをあえて聞きたい気持ちに駆られるんですが、3億円を自由に使えるとしたら、どう使いますか。

その3億円のうち、1000万円を使ってどう5億円を生み出せるか考えたいです。まぁ、戯言ですが(笑)。現実的な話をすると、ベルリンとロンドン、ニューヨークで活動できるような準備資金にしたいですね。設備さえあればなんとかなるので、最低限の設備を用意して、残ったお金はいざというときのために取っておきます。聞いた話によると、ちゃんとオペラをやるためには2億、3億円くらいはかかるそうなので。こんな回答でいいですか(笑)。

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