<『metro』で目指したものとは>
平本 月船さんは、個人的に、『metro』(※)という活動もされていますよね。『metro』を演っているときの、役者としてのスタンスについて伺えませんか。
月船 まず、お客さんとの近さが挙げられます。死ぬほど近いところで演りたかった。映像作品も、普通の演劇も、距離感という面で、観客と同じ生理でいることがなかなか難しいんです。いまこうやって平本さんと喋っているような生理が出来てこない。『metro』を始めたのは、演者と観る人が同じ生理を共有するためだったと言えますね。
こだわってるのは「生っぽさ」、ということを最初からずっと言ってて・・・。演者としての自分の尺度を、特別に大きくしたり、小さくしたりしないで、観客と同じ大きさでいられるようにすることが、『metro』のひとつの目的だったかもしれない。
平本 これまでの3作品で、視線の面でもそういうところを感じました。『metro』の舞台では、しゃがんだりすることで、役者がお客さんの正面の視線より低いところに行く瞬間があるじゃないですか。それって、結構不思議な感覚にさせられるんですよ、大体の演劇は演者が観客より上にいるから。
生理の近さということで言えば、「陰獣」公演のときは、小さな小屋だったこともあって、月船さんの言う、生っぽさが強かったなぁ、空気も蒸し蒸ししてて(笑)
月船 「陰獣」の初日は空調がうまく働いてなくて、すごく暑かったでしょ。そういうふうに、お客さんにも楽に観てほしくないんですよ、あれはアクシデントだったけど(笑)
お客さんが客観的に観ていられないようにしたい。
そういう意味では、「陰獣」で平本さんがつけてくれた音楽にしても、お客さんを緊張させたり、混乱させたりするように作られたものですよね。
(※)『metro』……月船さらら・出口結美子による2008年結成の演劇ユニット。2009年1月「陰獣」、同年12月「妹と油揚」、2010年5月「痴人の愛」を公演。2011年2月に出口が結婚により引退し、現在は月船の単独での活動。本年10月6〜13日、赤坂レッドシアターにて「引き際」が公演予定。公式サイトはhttp://www.metro2008.jp/