document

東京を巡る対談 月一更新

田中利樹(人工衛星研究者)×平本正宏 対談 宇宙が描き出す発想

<世界を数式では表わしえない視点>

田中 科学をやっている人の極論は、世界を数式で表したいということがあると思います。

平本 「π」ってタイトルの映画もそんなことを考えているマッドサイエンティストの話でしたね。

田中 宗教的な、創造主がいて世界が成り立っているという構図は人々を安心させますが、ルネサンス期に科学と芸術が広まった。その理由は、科学は科学で世界をこういうものだと実際の現象を元に普遍化し組み立てることができる、宗教的創造の置き換えを行ったわけです。

だから、科学をする人は、世界を記述することを求めていて、逆説的に宗教と近いんじゃないかと僕は思っているんです。一方で、科学だけで記述する世界には限界があると思います、先程のロボットがロボットを作ることが、人間が子孫を残すことと違う点のように、科学だけではない別の視点が必要じゃないかと思っています。

平本 その視点はどんなものだと思いますか?

田中 そうですね。僕はそのヒントが芸術の分野にあるような気がしていて。科学は言葉や数式で積み上げて行くものですけど、言葉が音符、数式を音楽理論に譬えて音楽を作ってみてもいい曲にはならないと思うんです。ただ、その視点がどういうものかというのを言葉にするのはいまは分かっていません(笑)。

平本 そう言ってもらえる分野に自分がいるのは嬉しいですね。科学と芸術って、もちろん数多のコラボレーションは行われていますが、芸術は科学と接したがっても、科学は芸術とどれほど接したがっているか知りたかったんです。データの収集とかそういう意味じゃなく、それぞれの本質に接する意味で。だから、若い研究者にそう言ってもらえるのは嬉しいです。

もしかしたら、本質的な接点を追求して行くと、科学とか芸術とか分けられない新しい分野が出てくるかもしれませんね。もの作りの仕方として。2つがクロスしたときでしか生み出されないものが出てくると面白いなと思います。

田中 僕もそう思いますね。

1 2 3 4 5 6 7