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東京を巡る対談 月一更新

田中利樹(人工衛星研究者)×平本正宏 対談 宇宙が描き出す発想

<音楽に触発されるもの>

平本 少し話を変えて、音楽は聴きますか?

田中 そうですね、JPOPとか。iPod見てもらえればわかりますが、結構ロックが多いですね。

平本 音楽に求めるものというか音楽をどういうときに聴くとかありますか?

田中 いい曲だなと思ったらその曲を沢山聴きます。歩いているときとか、寝る前とか。

平本 いま人がどういうときに音楽を聴くかっていうのに興味があって、僕はヘッドフォンは極力しないし、iPodも持っていない。音楽は好きだからすごく聴くんだけど、流し聴きみたいなことはしないんです。音楽聴くときは、よし聴くぞとスピーカーの前に座って聴く、もちろんお茶飲んだり、お菓子つまんだりはしますが。それ以外のときはなるべく聴かないようにしているんです。メリハリを付けたいというか、音に対して仕事や日常でとても強いベクトルが働く分、そうじゃない時間、音に接しない時間をなるべく意識的に作るようにしています。

でも僕の場合は超特殊で、ほとんどの人は移動や何かのときに音楽をイヤフォンやヘッドフォンで聴きますよね。日常のどういうときに音楽を聴こうと思うかってところに、人が音楽に接する神髄があると思うんです。田中さんの場合はいかがですか?

田中 小説を読むと普段もやもやと思っていることが、うまい表現で書かれていたりしますよね。そこでハッとさせられるというか。音楽も同じで、それが音と言葉でうまく表現されていると、そういう曲は好きになりますね。代弁してくれるというか。

平本 言語が理解できるとその現象は起きますよね。JPOPとかは、日本語の歌詞であることが大きな意味を持ちますよね。メロディ以上に大事にされることは結構あると思います。

詩を聴きとれない人もいるんですよね。僕の場合は、最近母音を聴いているってことがわかったんです。これは自分で作詞をしてわかったことなんですけど、僕にとって歌詞はどの母音であるかが重要で、歌詞の意味はどうでもいいんです。このフレーズは「う、あー」の母音であればいいとかそういう風に考えています。母音先行型というか。

いまあるプロジェクトで音に対して人がどう接しているかを調べているんですけど、人間ってやっぱり地球上にいるこの身体の作りに沿った、かなり限定された音の接し方をしていると思うんです。耳は2つ、頭部の左右外側についていますから、地面や空の音を聴くためには耳をそちらに向けるしかない。また指は左右に5本ずつしか無いですし、伸びたり縮んだりしませんので、映画『ガタカ』のピアニストじゃないですけど、同時に20音や30音を1人で押さえるピアノ曲は作れませんし。耳も20Hz~20000Hzですし。そう考えると、人はこの生体にかなり縛られて音楽と接しているんだと思います。

で、もしこれが宇宙環境に行ったりすると、生活環境がかなり変わるので、接し方も変わるんじゃないかと思っていて。大気構造の変化は音の響きを変えますし、重力の変化も何か及ぼすかもしれない。そういう視点から人の限界を知ると、それがそうでないものへのアプローチのヒントになるんじゃないかと思いまして。

田中 人工衛星は地球の周りを回っていると当然地球上とはリズムが違うんです。そういうところから紐解いて行くと人工衛星への見え方も変わってくるんじゃないかと。

平本 人工衛星ってとても特殊で人が決して体験することのできない地球の姿を映したりしてくれる。その割には一般人の生活に根付いていない印象があって、もっとアプローチが開かれていると面白いなと思っています。

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