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東京を巡る対談 月一更新

中嶋一貴(レーシングドライバー)× 平本正宏 対談 レースが奏でる<音楽>を聴く

<時間の流れに違いが起こること>

平本 あ、最後にもう一つ聞いてもいいですか? 自分が想像もしていなかった感覚に手が届く時っていままでにありましたか?

中嶋 うーん。運転に関して?

平本 何か行き着かないようなところに行き着くような感覚みたいな。

中嶋 うーん。

平本 作曲していると年に数回だけあるのですが、一瞬で8時間くらいが過ぎてしまうことがあるんです。あれをして、これをしてと順番にパシッとこなしていったら、結果すごくいいものが出来て、でも時間はすごく経過していて。

時間と肉体の感覚が共存できない、世の中の時間の流れと自分の肉体・思考が分離するような感じです。そういうのってレースでありますか?

中嶋 あまりそういうのはないですね。僕らの場合、決められた時間の中での時間割がはっきりしているので、その時間通りに動いていることがほとんどなんです。ただ、走っている時、すごくいいときは実際に起きている1周1分30秒という時間に対して、ゆっくり感じる。例えば、一つ一つのコーナーを曲がる時にコーナーごとに起こっていることをちゃんと感じ取れて、それを頭の中で理解しながら走れている時は、すごく調子がいい時です。

平本 把握する能力が高まるということですか?

中嶋 把握する能力も高まるし、それを理解する能力も高まる。それが出来ない時は感じ取ることは出来ても、理解できなかったり。へたすると感じ取ってもいなくて、気が付いたら1周終わっていることも、そういうときは何も残っていなくて、調子のあまりよくない時です。

いい時というのは1周で起こったことを事細かに思い出せる。時間の感覚でいうとゆっくり進んでいるような感じでしょうか。普段の感覚よりは頭が働いている、処理速度が速いような時は、走っていてもいいですね。そういう状況の時はタイムもよくて、いい結果に繋がっている。1周に関して言うとそういう形です。

逆にレースで言うとそういうことを積み重ねながら、でも気が付いたらあっという間だったなというのが一番いい時ですね。

平本 そこら辺の感覚はおもしろいですね。

中嶋 1周1周に関しては情報量がすごく多いのですが、その情報をちゃんと消化することを繰り返していたらあっという間に終わっている、それが一番の理想だと思います。

平本 今の話を聞くとますます演奏に近いと思います。いい演奏をした時って、ほとんど覚えているんですよ。

譜面通りでも、自分の指の動かし方とか全体で鳴っていた音とか、自分と全体を冷静に捉えて、そのうえで熱い演奏をしている。数ヶ月経ってもある瞬間を完全に覚えていたりするほど。逆によくない演奏の時は、本当に覚えていない。あっという間に終わったけど、何をしていたんだろうって。

そういういい状態を体験できたレースは何回くらいありましたか?

中嶋 うーん。そんなに言うほどないんです。F1やっている時で言うと本当にそれを突き詰められたのは、今覚えているのは1回しかないかな。

平本 そのときの結果は?

中嶋 結果は途中までよかったんですけど、ピットストップで手間取って残念ながら結果は残っていないです。でも、そういうレースでした。

日本に帰ってきてからだと、去年フォーミュラ・ニッポンで優勝した時は割とそういう感覚でした。もちろんレース展開もあるし、周りの状況もあるので自分の走りと結果が必ずしも一致するとは限らないですけど。

平本 じゃあ、ル・マンもそういう感覚で?

中嶋 行きたいですね。去年日本に帰ってきてから割とそういういい感覚で走れたことが多くなってきている気がするんです。もちろん、環境や車のスピードも違いますし、自分が余裕を持って出ると言うこともあるかもしれません。

2年目のシーズンが自分が上手く走れても何らかのトラブルがあったり、逆に自分がいいところでミスしたりとかみ合いがすごく悪かったので、そういう意味ではこの流れはよかったです。

はまったというレースはそんなに多くないですけど、その中でそうできるように試行錯誤して出来たのが今に来ているというのはあると思います。

平本 結構いい流れになってきているんですね?

中嶋 そうですね。やっぱりF1、2年目のシーズンがよければ今違った人生になっているだろうし、そういう意味では試練の年ではありました。でも、それがあったからこそ今があると思うし、そのときより確実に成長できていると思うので。

平本 ぜひ頑張ってください! ありがとうございました。


中嶋一貴(レーシングドライバー) Kazuki Nakajima

愛知県出身。1985年1月11日生まれ。身長175cm、体重60kg。

2003年 前年FTRSでスカラシップを獲得し、フォーミュラ・トヨタに参戦。3勝を挙げチャンピオンに輝き、翌年の全日本F3参戦の足がかりに。

2004年 全日本F3選手権に、トムスから参戦。シリーズ5位。開幕戦の鈴鹿ラウンドで2連勝という衝撃デビューを飾り、一躍注目を集めた。

2005年 全日本F3選手権に、トムスから参戦。シリーズ2位の成績を収め、年末にはマカオGPに出場(決勝6位)。スーパーGTのGT300クラスにも参戦し、1勝。

2006年 TDPの支援を受け、F3ユーロシリーズにマノー・モータースポーツから参戦。初年度から表彰台の常連となり、1勝を挙げてシリーズ7位。マカオGPはリタイア。

2007年 GP2シリーズにDAMSから参戦。シリーズ後半から表彰台に上がりシリーズ5位。ウィリアムズのサードドライバーに就任し、最終戦ブラジルGPでF1デビュー。

2008年 ウィリアムズのレギュラードライバーとなり、F1世界選手権に参戦。入賞5回、9ポイント獲得を果たし、シリーズ15位。決勝最高位は6位。

2009年 ウィリアムズからF1世界選手権にフル参戦2年目。開幕戦で4位を走行、イギリスGPでは予選5位を獲得するなど成長を見せるが、結果に恵まれず。

2011年 全日本フォーミュラ・ニッポン選手権とスーパーGTにトムスから参戦。
フォーミュラ・ニッポン選手権第2戦で初優勝、全戦表彰台でランキング2位。
スーパーGTシリーズ8位。

2012年 FIA世界耐久選手権(WEC)にTOYOTA Racingより参戦。
全日本フォーミュラ・ニッポン選手権とスーパーGTにトムスから参戦。

<直近レース日程>

ルマン24時間レース:6月16〜17日(ルマン、フランス)

フォーミュラニッポン:5月12〜13日(ツインリンクもてぎ、栃木県)、5月26〜27日(オートポリス、大分県)

スーパーGT:6月9〜10日(セパン、マレーシア)

 

http://www.kazuki-nakajima.com/

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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