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東京を巡る対談 月一更新

佐藤麻衣(タレント)× 平本正宏 対談 溢れ出す音/喧騒の台北、静寂の東京



<垣根を越えた仕事には軸があれば>

――――平本さんはヨーロッパで音楽の仕事をしていきたいんですよね。

平本 そうですね。どういうふうな環境で育ってきたかとか、どういう人物なのかとかのバイアスなしに音楽を聴いてくれる環境が海外にはあると思っていて、実際、興味を示してくれる人も何人かいます。それで、だんだん海外へ移行していけるんじゃないかと思いはじめているところです。

    日本で仕事することと、海外で仕事することとの違いについて聞かせてもらえますか。

佐藤 私の場合はちょっと特殊で、中国語がゼロの段階からアジアの皆さまが見ていてくださっていたのね。喋れるようになってから出はじめたのとは違って、みんなからすれば赤ちゃんのときから知ってるような感覚があると思うんです。

    はじめは你好と謝謝しか言えなかったのに、少しずつ喋れるようになり、トーク番組、クイズ番組に出られるようになり、MCアシスタントができるようになって……という過程を全部見てきてくれてるから、日本から来たタレントを見る目とは違って、台湾で育った日本人の女の子を見てる、というか……(笑)。

平本 「育ての親」的な感覚が視聴者の側にあるということなんですね。

佐藤 そう、そのうえで、10年も過ごして台湾の文化や風習はまだ謎に思うところもたくさんあるのだけど、暮らしているうちにだんだんそれに従うようになり、また日本の文化などもまだまだ勉強不足だけどわかる。だからその違いについて話せる。そういう特殊な立ち位置にいることで、トーク番組とかに求められるんじゃないかな。日本で高校・大学まで過ごした経験を話してほしいって言われることもあれば、「ここが変だぞ台湾」的な意見を求められることもあります。

    はじめは、かなり身体を張ったこともあったし(笑)。中国語があまり喋れないから身体で表現するというか。向こうって、お笑い芸人さんとタレントと歌手と、みたいな境があまりないんです。日本だったら芸人さんがやるような身体を張ることもタレントがやるんですね〜。


夕暮れの東京タワー、ソフィア・コッポラの「ロスト・イン・トランスレーション」を彷彿とさせる

平本 最近うちの親父が韓国バラエティ番組にはまってるんだけど、チェ・ジウが川に飛び込ませられたりしてましたね。こんなことさせて大丈夫なのかとビックリしたんだけど、本人は結構笑っていたり。

佐藤 ほんと、そんな感じなんですよね。台湾だと、女優さんもバンジーやるし、パイは投げつけられるし、日本だと「えっ、なんであの女優さんがこんなことさせられてるの」と思われるところですよね。

平本 日本だと区別がありますね。

佐藤 そうそう。たしかにその区別はタレントのイメージを守るために必要なのかもしれないけども、身体を張った姿を視聴者が見て面白く感じて、笑ってくれるならアリだと思うんです。特に私は海外から来た身分というのもあって、人一倍頑張らないといけなかったんです。その姿を見て、励まされたり、元気をもらったという声をいただけたら、それが一番嬉しい。その土地の水に慣れなくちゃ。でも本当、台湾ってかなり自由だな、フランクだなって思いますよ。

平本 うん、あと日本人はジャンルを気にしますよね。僕もよく、作っている音楽のジャンルを聞かれます(笑)。

佐藤 日本人はプロ意識が高いですよね。研究して、極めて。それが凄いのはよくわかります、台湾にはそういう職人みたいなところが日本に比べたら少ない。でもだからって、そんなに枠にはめなくていいんじゃない、って思っちゃう、私は。

平本 それと、専門分野以外のことをやると、まわりの人がびっくりしてしまうしね。自分が伝えたいと思うことの焦点が定まっていれば、いろんな手段を選んでいいはずなのに。

佐藤 軸をちゃんと作ってブレなければ、自分が楽しくしてるのが一番大事なわけだから、何をしてもいいよね。むしろ、自分が楽しむことで、まわりがみんなハッピーで、見てくれる人もハッピーで、という仕事環境を作れたらいいなぁと思ってやってます。

平本 来てもらったライブでは、前半で電子音楽をやり、後半でバンドをやりました。そうすると、前半が良かったという人と、後半が良かったという人と分かれてしまうんですね。なおかつ、なんで前後で違うことやるんだとか、意図が前と後ろでずれているとか、意見を言われたりもしました。

    ほかには、電子音楽のあとにピアノ曲を弾くと、どっちがやりたいんだと質問されることも多いです。でも、僕にとっては、どっちも同じくやりたいことで、そこに差を感じない。

    だから、台湾へ行って、台湾の音で曲を作りたいし、ピアノも弾きたいし……。もちろん、番組で音をその場でつけることもしてみたいし(笑)。

――――麻衣さんは言葉を覚えるまえのまっさらな状態で海外へ行ったわけですが、平本さんは海外で勝負する音はもうとっくに用意されているわけで、その点は大きな違いですね。

佐藤 言葉を覚えないといけないなと思ったのも、向こうへ着いて1週間後の話で、それは毎週放送される番組のオーディションに出演しないといけなかったからです、通訳なしで。その番組内で、次の週まで単語を100個覚えてテストとか、中国語の歌を10曲与えられて何曲覚えられたかのテストとか、そんなゲームをさせられて、覚えざるを得ない感じだった。ほかは、日本語を喋ったら罰金とかダイエット罰金もあって。ほんと、よく生きてたな〜。

平本 罰ゲームにならないようにしなきゃ(笑)。

(構成/間坂元昭  協力/よしもとクリエイティブ・エージェンシー)


佐藤麻衣(タレント) Mai Sato

2000年台湾華視テレビ(CTS)の人気番組「超級星期天スーパーサンデー」のオーディションに参加。視聴者によるインターネット投票1位を獲得。Sunday Girlsとして台湾デビューし、CDリリース。台湾を中心にアジアのバラエティー、ドラマ、CFなどで活躍、海外番組出演本数1000本以上にのぼる。
台湾のYahooブログは常に人気ランキングTop3に入る。
中国ツイッター「Sina 微博」では6ヶ月で100,000人を超すフォロワーを集めている。
2010年5月にプロデュース化粧品「Mai Doll」を発表。
2011年6月にはビューディブック「無齢教主」を発売など、台湾若者にとって憧れの女性として注目される。
中国、台湾を中心にアジア各国の音楽、映画などのエンターテインメントを紹介するTBSラジオ「麻衣的亜洲電波〜Mai’s Asia Wave〜」のパーソナリティーを務める。
2011年1月から上海SMG星尚酷で放送する、日本の流行を紹介する情報番組「東京我最行」にレギュラー司会者として出演中。


対談終了後、左から平本、佐藤麻衣、間坂元昭
撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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