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東京を巡る対談 月一更新

太田垣悠(ダンサー)× 平本正宏 対談 阿佐ヶ谷に立つ表現者の客観視

<阿佐ヶ谷以外の東京に感じる違和感>

平本 阿佐ヶ谷とヨーロッパの街の違いってなんだろう?

太田垣 う〜ん……阿佐ヶ谷は「ねっとり」してる。中央線沿線の商店街がそうなんだけど、縦横斜め関係なく人と人が信頼し合ってシンプルに出会える、簡単に他人の生活の一部になれる……そんなヨーロッパにはない「ねっとりさ」がある。

平本 いま七夕まつりの準備をしてるところを見てきたけど、そういう地域の行事もその一面かもしれない。

太田垣 それと、阿佐ヶ谷ってちょっとダサいのが素敵ってところがある。そのダサさをみんな誇りに思って生きてるような、さ。一見さんお断り、みたいな雰囲気もある。

平本 わかる。西荻窪にもそういうところがあるよ。

太田垣 そうだよね。中央線はアジアだよね。東京のなかのアジア。ちょっと暑苦しいところが好きです。

平本 離れてこそわかるということもあるんじゃないですか。

太田垣 でも、ずっと外国にいるにもかかわらず、いまだに日本を客観視できない。

平本 それって、ほかの海外に出ている人もそうなのかな?

太田垣 そうだと思う。価値観がまだ定まらないうちに日本を出た人ほどそういう傾向があるんじゃないかな。心のどこかで15で出てきた時のままの視点で日本を見ているのかも。

あと、阿佐ヶ谷以外の東京だと、馴染めなさがあるんですよね。こんなに人のいるとこって世界にないから。

平本 いまの居住地でじゃなくて、パリに住んでると、また違った感想になるんじゃない?

太田垣 うん、ジュネーブという比較的小さな街に住んでるからっていう面もあると思うけど。でもヨーロッパとアジアって人口の密集度の桁が違う。

平本 それはわかるね。「TOKYO nude」の作曲のときに、レコーダーを持って渋谷に音を録りに行ったんだよ。それで、センター街のマクドナルドの前とかでフィールド・レコーディングすると、大轟音のノイズ・ミュージックみたいなわけ。もう音の種類の多さから、音量の大きさからすさまじいものがある。耳が破裂しそうなぐらいだよ。でも、そんな異常な状況の音もなかなか好きなんだけどね(笑)。

太田垣 それだけの情報が飛び交ってるわけだよね。私はそれが却ってストレスに感じちゃう。向こうではテレビも見ないし、フランス語も喋りはするけど、母国語ではないからシャットアウトしようと思えばできちゃう。

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