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東京を巡る対談 月一更新

太田垣悠(ダンサー)× 平本正宏 対談 阿佐ヶ谷に立つ表現者の客観視

<快感のドライブ>

太田垣 平本君の音を聴いていると、自分でも気づかなかった感覚を掘り起こされます。そういうのって、意識してやってるのかな?

平本 自分の未開の感覚を探りながら作曲しているか、ってこと?

太田垣 んー、こういう間の取りかたをしようとか、ああいう圧力をかけて行こうとか……何をベースにして作曲してるのか聞きたい。感覚的にやってるのか、もっと計算的にやっているのか。

平本 人に頼まれてする作曲は別だけれども、自分の作品として、ある種、論文提出をするような気持ちで作るときは、生きている感覚や日常の感覚、作曲経験から来る感覚――それを全部否定してやろうと考えます。

慣れ親しんだ感覚で作曲するのは実は簡単。そうではなく、それまで面白いと思わなかったモノに、わざとズームアップするようにする。

例えば、パッと鳴らして面白い音よりも、あえて面白いと感じなかった音をピックアップして作曲に結びつける、そういう手法。

やってきたことって全体から見たら本当に小さな欠片くらいしかなくて、やったことのないことの方が圧倒的に多いのに、やったことのないことを見失ってしまうことって、日常生活でもしばしばあるんだよね

太田垣 具体的にはどうやって面白い音に転換させてるんですか。

平本 自分の感覚とずれた音を、いじり倒す。遊び倒す。その繰り返しかな。

作曲には2通りあって、知っている10のことを使うやりかたと、10のことから未知の11番目のことを生みだすやりかた。最近はいつの間にか新しい手法を獲得していることの方が多いかな。快感のドライブに乗っかることは簡単なんですよ。

太田垣 不安定さを担保しておく、ということだね。

平本 やっていないことを一個一個潰していくことで、まったく新しい音が生まれると思って作曲している。そして、その作業はなかなかエキサイティングなんだよね。

(構成/間坂元昭)


太田垣悠(ダンサー) Yu Otagaki

神奈川県生まれ。9歳で橘バレエ学校に入学。15歳でフランス、カンヌのロゼラハイタワーダンスセンターに留学。16歳でフランス国立リヨンコンセルヴァトワールに入学、首席で卒業。
2003年、フランス国立リヨンオ ペラ座に入団。Wiliam Forsythe, Mats EK, Jiri Kylian, Sasha Walz, Maguy Marinなどのレパートリーを踊る。クラシックバレエ教師国家資格を取得。2008年、スイスのgrand théatre de genèveに移籍。Sidi Larbi Cherkaoui, Ken Ossola, Andonis Foniadakis, Michel Kelemenisの『シンデレラ』のタイトルロールなどを踊る。

 


対談終了後、左から平本、太田垣悠、間坂元昭
撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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