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東京を巡る対談 月一更新

小高登志(神田まつや5代目)×平本正宏 対談 人と文化が行き交う交差点



<一流への道>

小高 ところで、その家やお店によって生活様式が違うのは当たり前ですけど、やはり、お店自体にもどうしても格差社会ができちゃうんです。

うちも暇だったお店がこれだけ忙しく、お客さんにお越し頂けるようになりましたけど、その為には小さなことでも一所懸命やらなかったら、今日には至らなかったですね。すぐそこへ歩いていくのでも、まずは一歩を踏み出さなきゃならない。弟の嫁が「兄さん達は、あんなに働いて何が残るの?」って言ってた時期があったらしいんですけど、私達はやらなきゃダメだったんです。私は九段高校出身なんですけど、周りに優秀なのがいっぱいいましてね。仲のいい東大の名誉教授がいますが、いまだに夜、3時4時まで翻訳をやってから寝るんです。お弟子さんが先生はもうお休みになっていると思って夜中にメールを送るんですけど、先生は5分も経たないうちに返信するんです(笑)。その方はサマセット・モーム協会というのをやっていまして、サマセット・モームの訳本をずいぶんと出されています。家へ帰ると、まず机に向かい、6時頃になって夜ご飯を食べて、食べ終わるとまた机に向かうんです。それぐらいやらないと一流の学者にはなれないということでしょうね。おそば屋さんでも洋食屋さんでも皆寝ないでやっているんですよ。吉祥寺にある「竹爐山房」という中華屋さんの山本さんは一時期は築地まで自動車で買い出しに行ってて、その車の中で寝ていた時期があったと伺っています。

平本 篠山紀信さんもいまだに演劇や映画、バレエと色々なものを貪欲に観に行かれて、すごい勉強熱心なんです。今年75歳になられるんですけど、まだまだどんどん写真が楽しくなる、去年より今の方が写真が上手いとおっしゃってます。あと、クリント・イーストウッドやジャン=リュック・ゴダールなど、映画の世界では80歳を超えても世の中を驚かす素晴らしい作品を作る人がいます。

小高 そういう人には幸せなお仕事ですよね。



平本 いいお仕事をされ続けている方に共通しているのは、年齢を重ねられても、貪欲に何かを勉強されたり、突き詰めたいという姿勢が変わらずあり続けること、まるで少年のように楽しく熱心に自分を注ぎ込む姿勢を感じます。

小高 今までに和食やイタリアンの方々とご一緒したことがありまして、ソムリエの田崎真也さんや道場六三郎さんという方たちを見ていると、なるほど、だからこれだけ有名になられたのかといえるくらい皆さん熱心ですよ。

平本 皆さんは最初から熱心で真面目な方々だったんですね。おそばであったり、他の料理においても、素晴らしい料理人の方には、美味しくしよう、お客さんが楽しんでくれる料理を作ろうという探究心がありますよね。

小高 そうですね。やっぱり料理の世界も、何にでも興味を持つようなところがないとダメなんじゃないですかね。

平本 自分の専門だけでなく他の分野のことに興味を持つことは大変必要だと感じています。私も色々な方にインタビューをさせて頂いているんですが、確かに音楽とは全然関係のない人にお話を伺うとものすごく勉強になったり、新しい発想に気付かせてもらうことが多いんです。自分の分野は自分一人で思いっきりやることは出来ますけど、そうではないところには、自分で手を伸ばしたり、その分野の精鋭たちと知り合い、話を伺ったり教えて頂いたりすることで、勉強して自分にとっての収穫になればと思っています。

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