document

東京を巡る対談 月一更新

小高登志(神田まつや5代目)×平本正宏 対談 人と文化が行き交う交差点



<変わらぬ味を守り続けて>

平本 まつやさんの今後について思われていることはありますか?

小高 そば屋の将来というのは、これからどうやって変わるかな、というのは寝てても考えてますね。今のまま行くと、本当にいい店は食文化の一端を担っているそばということで、うなぎ、すし、天ぷらと並んで無くならないと思うんですよ。ただ、これから50年、100年経った時にどうなるんでしょう。良い店だけが残るような気がするんです。今でもおそば屋さんはどんどん減っていますから。そば粉屋さんと話すと、1年に120件おそば屋さんが減ったって言ってましたね。跡取りがいない、世界中から色んなものが入ってくる等の様々な環境の変化が原因だと思います。はっきりしていることは、とにかく美味しくて良いものを売らないとダメだということです。材料がどんどん値段が上がると、やっぱりおそばも高くなります。今は海老の値段がどんどん上がってきていますから天ぷらそばにしても高くなっちゃうんですよ。僕は円安の時代はもっと高くしていたんだから元に戻ったと考えれば良いって思ってます。

平本 もとの材料が高くなると、どうしても料理の値段も上がりますよね。

小高 羽生のサービスエリアに鬼平江戸処というのが2、3年前にできたんですね。池波先生のオフィスが「神田まつや」さんが店舗を出してくれるんだったら「鬼平犯科帳」の名前を使っていいって言って下さったんです。私は監修ということでお店をやらせて頂いています。他にも日清食品が「神田まつや」のカップ麺を作って下さいました。現在200万食というすごい数のカップ麺が出回っています。

平本 「神田まつや」さんが監修のカップ麺が出たことは存じております。残念ながら、近所のコンビニではいつも品切れでして。カレー南蛮と鳥南蛮が出ているそうで、早く頂きたいと思っています。

小高 ただし、これからどこでどう変わるのかちょっと見当がつかないですね。小麦粉は2000万トンのうち1900万トンが輸入品なんですよね。お米だけはそうなってほしくないですね。美味しいものを作って売らなきゃいけないということだけは分かっています。名人と言われる人は思い切って値段を上げてますけど、それができるなら、と羨ましいです(笑)。当の本人は高いと思っていませんから。「お前んとこのそばは詐欺だ」って言われると、今でも本気になって怒ってます。名人たちは自分でそば粉を買ってきて自分で挽いているから、その労力まで考えると高くなっちゃうんです。だから彼らにとっては高くないんです。私はお客さんがおっしゃることも分かりますし、業者の方の気持ちも分かりますね。でも高くなっちゃうんです。

手作りのものは何にしても全部高いですよね。今は和服もそうですよね。皆さんが和服を着る時代がくれば安く出来るんでしょうけど、特別なものになっちゃいましたね。それに職人も減っちゃっています。

とにかく、美味しくて良いものをこれからも私たちは売らないといけないと思いますね。

平本 これからもずっと「神田まつや」の味を楽しみたいです。

今日は長い時間ありがとうございました!



小高 登志 / Toshi Kodaka

神田まつや 5代目店主
昭和7年5月22日 神田にて生まれる。
昭和32年慶応義塾大学法学部卒業。
同年「神田まつや」入店。
その後、手打ちそばの研究会であった「蕎風会」にて手打ちそばの技法を 学び今日に至る。
「売る身は買う身」常にお客の立場に立って商いをすることを信条にしている。

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

1 2 3 4 5 6 7 8 9