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東京を巡る対談 月一更新

無良崇人(フィギュアスケーター)×平本正宏 対談 音楽を愛して止まないプロフィギュアスケーター

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〈ヴォーカル解禁によってスケートの雰囲気がガラリと変わった〉

平本 普段気に入って聴いている曲の中で、フィギュアで踊れたらいいのにな、と思う曲はありますか?トランスとかも含めて。

無良 スケートでそのような曲で滑ろうというアイディアとしてなかったですね。フィギュアではなく、もともとダンスをやっていたとしたら考えが変わっていたのかもしれません。今までも習い事でジャズダンスとかやってはいたんですけど、全部スケート有りきの上でやっていたんです。ダンスをメインにはやっていなかったので、練習してコンテストに出るということもなく接していました。フィギュアスケートはこういうジャンルだ、という縛りがありました。

フィギュアで使う音楽についても、今までヴォーカルが入ることが禁止されていたので、見てくれている人の中にはオペラやミュージカルが好きな人たちがいて、音楽が切り替わると、これからオペラでは良い歌が入るシーンなのになんでここで音楽を切っちゃうの?というところで編集している時があります。それが今では解除されたので、ミュージカルの音楽の、一番の聴かせどころの歌の部分も流せるようになったんです。

平本 そのヴォーカル部分を解除した背景には何があったのでしょうか?

無良 もともと”アイスダンス”というカップルでやる競技ではヴォーカルがBGMが入ることはOKなんです。ただどうしても言語的に有利になったり、不利になったりという問題が生じてしまう。ヴォーカルを入れても大丈夫になったのは、2014年からです。

平本 結構最近のことなんですね。ヴォーカルが入ることによって、スケートが変わっていく感触は感じましたか?
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無良 ありましたね。実際それ以来スケートの雰囲気がガラッと変わったんです。

僕自身オペラ座の怪人がすごい好きでフィギュアで使いたかったのですが、この曲は人気なのでは他の誰かが使っていたら、似てしまうのではないか、と心配はありました。自分の出番よりも先の選手が同じ曲を使っていたら、僕の出番になって滑った時に、この音楽ってさっきの選手も使用していたよね、という印象のまま滑らなくてはいけなくなる。それにオペラ座の怪人の曲を部分的に使用するにしても、他の曲とどう繋げていくかという課題が出てきてしまうんです。

ヴォーカルを使用してもいいとなった時に、その反動なのか、同じ試合で4人の選手がオペラ座の怪人を使用したんです。男性の選手には羽生結弦くん、女性の方は村上佳菜子ちゃん、アメリカのグレイシー・ゴールドだったかな。

平本 なんと!それぞれの選手が使う部分はどうだったんですか?

無良 オペラ座の怪人には映画版と舞台版の2種類があります。使う部分もヴォーカルOKになった分多様性が出てきているため、選手それぞれ異なったオペラ座の怪人ができたんです。もしまだ声の部分が解禁されていなかったら、きっとみんな同じオペラ座の怪人になっていたと思います。それなら僕も使おうとはならなかったでしょうけど。

平本 もしその4選手の順番が並んでしまっていたらすごいことになりますね。

無良 そうですね。国別対抗という少しショー的なものがあるんですけど、その時は僕、羽生、宮原、村上で出たんですけど、宮原さん以外全員同じ曲でした(笑)

平本 それは面白いですね。使っているパートがまるっきりかぶるということはあったんですか?

無良 それがうまいことにそれぞれ重ならないように編集されていたんですよね。振付師が次の曲につながるように上手に編集をしていました。
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平本 確かにオペラ座の怪人の全音楽から細かく編集するとなると、かぶることは無くなるかもしれないですね。ヴォーカルパートが使えないとなると、特にミュージカルの音楽だと使用できる部分はかなり狭まりそうな印象を受けます。

僕は作曲家としての最初の仕事がコンテンポラリーダンスの音楽の作曲だったのですが、コンテンポラリーダンスの多くの作品で音楽を使われるエストニア出身のアルヴォ・ペルトという作曲家がいるんです。「アリーナのために」、「タブラ・ラサ」、「フラトレス」などいくつか有名な曲がありますが、昔ショーケース的な公演を見に行った時3作品中2作品がアルヴォ・ペルトで、同じ曲ということがありました。ダンスだと一作品10分以上あるので、それこそ編集されず、そのまま同じ曲が流れるんです。もちろん、その曲を演奏している指揮者やオーケストラ、録音会場は違いますが、同じ曲ではあるのでなかなか辛いなあと見ていて思いました。

無良 後にやる方が圧倒的に不利になりますよね。フィギュアでは長くて4分なので、1時間半くらいあるオペラ座の怪人のどこのパートを使うか、幅はありますね。

平本 その4分の中にはどれくらいの編集が入るんですか?

無良 大枠として前半2分、後半2分という具合に分けられます。前半にジャンプを跳ぶエリアとステップを踏む早めのエリアがあり、ゆっくりめのエリアを挟み、最後に盛り上げて終わる、というのがスケートの王道パターンなんです。こういったプロセスの中で、楽曲のある部分の音に動きを合わせたい時に編集をしていく。

平本 そうなると使いたい曲によって各パートの長さも変わっていくわけですね。

無良 そうです。だから後半の盛り上がっていくエリアに比重を置きたい人は、前半後半の間に挟むゆっくりのパートを早めに持っていくように編集しています。最初はすごいゆっくり始まり、後半になるにつれ、どんどん盛り上がっていく。選手によって全然バランスが違います。

平本 無良さんの場合、どのようなパターンだったのですか?

無良 基本ベースに先ほど話した王道パターンがあり、使いたい曲によって使う部分の長さを変えてたりはしていましたけど、毎年違うように編集をしていました。今はもうマイケル・ジャクソンの曲を使うのもOKにはなったので、色々なジャンルの曲が一つの試合の中で聴けるようになりました。

平本 それは観客も楽しみが増えそうですね。音楽のバリエーションが増えれば、選手の個性もよりはっきりしそうですし。

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