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東京を巡る対談 月一更新

駒井知会(弁護士)×平本正宏 対談 人の人生を変えていく為の難民支援

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<日本の難民認定率は1%未満>

平本 当時は弁護士という道は考えていなかったのですか?

駒井 全然考えていなかったです。法律の勉強も、国際法ばかりやっていましたし。司法試験受験を当初から考えていたなら、国内法を勉強していました(笑)。修士まで東京大学で国際法を中心に勉強をし、それからオクスフォード大学の修士課程で難民研究をしました。私がイギリスに留学した年はちょうど、オクスフォード大学で、難民研究にある意味特化した修士課程(学位は、「Mst in Forced Migration」)が設置された年だったのです。

それで、オクスフォードで難民研究を勉強していくうちに、ここで初めて、逆にじゃあ日本は、国際法的に保護されるべき「難民」と言われている人達を守ることができているのかどうかということに興味がわいてきました。私がオクスフォードにいた時、日本では1年に10人難民認定されるか、されないか位の認定数でしたが、ここ数年も、日本で難民認定を受けた人の数は、6人、11人、27人と、あまりに少ない数だという意味では全然変わっていないんです。正直、日本の難民認定数を初めて知った時の衝撃は、忘れられません。

平本 その数字は、まだ他に認定されるべき人がいての人数なんですね。

駒井 その通りです。日本での難民の認定率というのは、1%もないんですよ。1000人のうち5~6人前後しか認定されないということです(2015年)。かといって残りの995人が、フレーズとして、一部マスコミが多用する「偽装難民」なのかというと、そんなことは、絶対ないです。日本は国際法を守りますと約束しているのに、認めていないという実態だと、私は考えています。実際、個別の事案を見ていると、そうとしか思われない。本来、絶対に認定されるべき人達が、色々な理由をつけられて、或いは、色々不利な状況に追い込まれて、落とされています。

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平本 日本側は、難民の認定を少なくすることで何かメリットがあるのでしょうか?

駒井 正直、私は、メリットなんてないと思っています。

日本の難民問題について、あちこちの大学でもお話をさせて頂く機会が多いのですが、ただやはり、「難民を、こんなに少ししか認めないのは、何故でしょうか?」と、必ず学生さんたちが質問して下さいます。でも、それに対する回答には、いつも困ってしまう…。本当に、その答えを知ることが出来たら、それを乗り越える対策を打ち出していくことも可能だと思うのですが…。

私は何も闇雲に、数値目標を決めて認定数を増やせと言ってるわけじゃないんです。難民認定を、国際法に従ってやって下さい、条約を守りましょうと言っているだけですので。私の言いたいことは、その点に尽きます。少なくとも今のところはね。それなのに、なんで、日本は、本来、国際法・条約に従えば難民認定すべき人まで認定しないことで、難民認定数を減らしているのか…。それが誰かの故意なのかそうでないのかは、不明ですが。

平本 例えば難民を多く受けている国として海外から見られた時、国家間の関係で何かデメリットになってしまうことがある、ということですか?

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駒井 カナダなどは、多くの難民を受け入れることで、広く国際的な声望を得ていると思うのですがね…。勿論、難民の受け入れに関連して苦しんでいる国もあります。でも、難民を受け入れる過程での苦悩とそれを克服しようともがく姿を、外から軽蔑する国は、ないと思う。

ただ、ある庇護申請者を「難民認定」すれば、その庇護申請者を輩出した国に対して、輩出国自体がその申請者に対して迫害を行っているか、あるいは輩出国が、自国に暮らす市民を迫害から守ってあげられていないという評価をしていることにつながります。

日本としては、もしかしたら、「難民認定」を行うことで、そういう庇護申請者の出身国から、自分たちに否定的な評価を下した国と見られるのを好んでいないということがあるのかもしれません。この国からは嫌われたくない、ということなのかも。勿論、それだけが理由だとは思いませんが。

ただ、はっきり申し上げておきたいのは、もし、どの国からもそういう意味で睨まれたくないのなら、そもそも日本は、難民条約に入るべきじゃなかった。「国際法を守ります」と宣言するべきではなかったのです。人権を守ること、迫害の危険から逃れてきて助けを求める人々に手を差し伸べるということは、決して綺麗ごとばかりでは済まない、簡単で、ニコニコ握手と、楽しいことばかりではない。それでも、守らなければならない人々の命や人生や人権がある、そう日本は既に決意したはずであり、だからこそ、難民条約・難民議定書に入ったはずなのです。

今、日本で難民認定を求めている人の中には、日本に来てから日本が難民条約に入っていることを知る人もいますが、予め、そのことを知っていて、日本に辿り着けば、条約の理念に従って、自分の人生が救われると希望を抱いている人もいるのです。そういう人たちの当然の期待を、日本は裏切ってはいけないですよね。それに、真にある国の信頼を勝ち得たいと思うのであれば、仮にその国が間違ったことをしていたり、自国民を守り切れていなかった時には、日本に逃げてきた人々のことは難民認定してきちんと保護しつつ、その輩出国に友人として忠告を与えたり、或いは、根本的な問題解決を行うべく外交力を発揮する等、積極的に動いていけばいいのだと思うのです。

そして、いずれ、年月がたって、その国が難民など出さない国に生まれ変わったとき、以前、日本に逃げてきていた人々のうち、少なくとも一部は帰っていくでしょう。そして、戻った祖国で、新しい国造りに参画しながら、日本への感謝の念を抱き続けてくれるでしょう。目の前の難民を救いながら、長期的な視座に立って世界に対峙していく、日本はそういう国になってもいいのではないでしょうか。

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