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東京を巡る対談 月一更新

駒井知会(弁護士)×平本正宏 対談 人の人生を変えていく為の難民支援

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<オペラの世界>

駒井 先日、平本さんが作曲されたオペラ『OPERA-NEO-』を東京芸術劇場で見せていただきました。伺いたいことが沢山あるのですが、まず、なぜ「オペラ」に取り組もうと思われたのでしょうか?

平本 まずオペラという作品形態への強い興味が昔からあったからです。オペラはさまざまな要素が詰め込まれた、まさに芸術の集大成です。音楽は中心にありますが、音楽だけでは成立しません。物語も美術も衣装も照明もある。さらに、その前にオペラの世界観を作るためには、社会、経済、科学など様々な要素をリサーチし、コンセプトを作る必要がある。それは本当に手間のかかることで、実際にやってみたら想像以上に大変でした。でも、普段世に出る音楽の在り方、容易く消費される在り方とは違った重厚さがある。それはいまの時代に面白いと思いました。

あとは、オペラのフレームを新しくすることにも興味がありました。20世紀、総合芸術は完全に映画でしたが、その映画、もっと言えば映像メディアも飽和してきた。その映画、映像を受容した経験を生かして、新たに生身の、リアルタイムで行われるパフォーマンスを作ったら新しいオペラの形に辿り着けるのではないかとずっと思っています。『OPERA -NEO-』はそのための第一弾でした。あの制作は、自分にとって貴重な経験になり、今後のオペラ制作の指針になったと思っています。

この対談、実はオペラのためでもあるんです。色々な職業の方と話して、全く知らない世界、事実だけでなくその人の感覚を知ることができる訳ですから、贅沢です。そして、その人たちの”今”の感覚を知れる。ここがとても重要だと思っています。皮膚感覚、今の状況に対してどう思っているか、アプローチしようとしているかということは、作曲の大きなヒントになりますから。

音楽家が、音楽の世界しか知らないで一生を終えるのは悔しいですし、寂しいです。だから、毎回の対談で本当に良い刺激を頂いています。あと、それぞれの道でプロフェッショナルに活躍されている方は、分野関係なく共通したスタンスを持っているところも多いです。対談していて、その分野について詳しく知らないけど、取り組み方だったり、突き詰め方、考え方は似ていて、話が盛り上がることはよくあります。

駒井 Webを見てみたら、色々な方達と対談をされているので、本当にバリエーション豊かですね

平本 毎回そうですが、駒井さんと今回お話する機会を頂いたときも、初めてお話しする分野ですので緊張、気合いが入りますね(笑)自分にとって結構なチャレンジでした。

駒井 そう言って頂けると、嬉しい限りです。『OPERA-NEO-』は、SFの世界ですよね。まず、SF世界とオペラの融合にたまげました。何故、この組み合わせだったんですか?

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平本 あり得ないことが次々と起こる時代ですので、SFが持っている”あり得ない要素”を提示することで、逆に人間の本質や本性が浮き彫りになるのではと思いました。一人の人間が、人類の問題と直面することなんて普段の日常生活ではないわけですが、現実には結構直面していると思います、資源の問題やエネルギーの問題をはじめ。でも、それが一人ひとりに強く突きつけられるわけではない。それがSFの要素をもたらすことで、突きつけられるわけです。そこは、SFに私が惹かれる部分で、次のオペラにもその要素は入ってきます。

駒井 本当に、今まで見たこともない、聴いたこともない、不可思議で幻想的な舞台と耳に残る音楽で。最後まで、目が離せませんでした。この斬新なオペラを作り上げた平本さんとスタッフの方々のチャレンジ精神に、心から敬意を表したいと思います。

平本 ありがとうございます。いま、音楽はとても面白い時代に来ていると思っています。2000年から2010年くらいまでつまらなく感じていて、その閉塞感をなんとか打破したいと思って作曲をしていました。それが2010年くらいから世界的にも面白い音楽が沢山出てきた。自分がやりたいと思っていたことに賛同されるような気持ちもありますし、多様な魅力的な音楽を作る人達に負けてられないと言う気持ちもあります。その思いがオペラ制作を後押ししてくれた気がしました。これは新しいモノにしなくてはいけないと。それで、音楽はああなりました。正直、あのあと『OPERA -NEO-』は改訂作業をしていて、音楽はより電子音だらけになりました。

駒井 リフレインされるセリフと音楽には、どのような意図が隠されているんですか?

平本 音楽に関しては、リズムや旋律のリフレインはそれほどなく、その代わり作曲に用いている音の素材、音色が全曲に渡って意図的に同じものを使用しています。これは単純に自分が惹かれる音だからです。あと曲は変わりながらもそれを支える世界は統一されていることを示したかった、自分なりのオーケストラがオペラの中に存在することを示したかった部分が大きいです。セリフのリフレインも同じ意図ですが、これはもっとストイックにリフレインが響くように改訂作業しています。

駒井 ぜひこれからも、オペラの世界で挑戦を続けていただきたいと思います。次回作も期待しております!

平本 ありがとうございます。

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