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東京を巡る対談 月一更新

高橋久美子(作家・作詞家)× 平本正宏 対談 言葉と音楽が触れられるもの

<最近やってきたそれぞれの転機>

平本 電子音楽を本格的にやり始めて8年くらいになるんだけど、昨年リリースした『TOKYO nude』で少し完結した感じがしていて、最近はちょっと電子音楽がどうでもよくなっている節があるんだ。宣伝担当としてはまずいんだけど(笑)。

じゃあ、どこを追求するかと考えてみると、どれだけシンプルなものを作れるかということに考えがシフトしてきた。いままではいかに複雑で、いかに色々な音が出てくるかということが作曲するにあたって気になっていたんだけど、いまは例えば数式が一本あって、その答えが円周率みたいに延々と続くような音が出せれば、それでいいなと考えるようになってきている。シンプルなものからどこまでも続く音を生み出したいみたいな感じかな。

高橋 横にばーっと広がるのではなく、ずーっと先に伸びていく感じ?

平本 そう。針くらい細くていいから延々続いているような。

高橋 そういうのはあるかも。ひとしきりやるとそこに到達するのかなと思ったりしますね。

沖縄に行った時、自然をきれいだとは思わなかったんですよね。めっちゃ海が広すぎて怖いと思った。足の下に珊瑚がいて、オレンジの魚が泳いでいて、途方もなくて怖かった。白川郷に行った時は雪が多くて怖かった。東京にいたら庭園がきれいに整っていて、自然はいいな美しいなって思うのに、作られた自然だからね。これが本物だったなって思いだした。だからなのか、最近は東京を離れるかもと思ったりもしていますね。

環境が変わると作るものも変わりますよね?

平本 絶対に変わると思う。演奏会場が違うだけでも出す音って変わったりするでしょ?

あと、海の中や白川郷が危険だという感覚もわかる。いま一緒にプロジェクトを進めている極地建築家の村上祐資さんは南極やヒマラヤなどの極地に赴いて、そういう場所での居住環境を研究しているんだけど、彼は必ず生きて帰ってくることをモットーとしている。それは危険を知っていることだし、自然はそれほどまでに大きな力をもっているということでもあるんじゃないかな。

高橋 雪崩で死んでもおかしくないなと、この前の白川郷では思った。お姉ちゃんに子供が生まれて、それは嬉しいのだけど、この子がどうにかなったらどうしようとか悲しいことばかり考えてしまう。

人が多くいるところは国が変わっても同じだとも思うんだけど。

平本 そして、都市から一歩外へ出たら世界は変わるよね。

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