document

東京を巡る対談 月一更新

Tekna TOKYO Orchestra スペシャルトーク デジナマ吟醸『テクナオケ』のつくりかた

4曲目「our melody」について

平本 スウェディッシュ・ポップみたいな曲を作りたいなと思ってできた曲ですね、僕の作曲はいつも理由が安易だなあ(笑)。

SE的に使っているエレクトロニクスはノンリバーブ、それ以外のサウンドには深めのリバーブをかけています。深い響きと全く響きがないものが同時になっている感じを作りたかったので、あえて極端なまでの棲み分けをしています。

途中から出てくるバタバタしたチープなドラムはTRITONのドラムをスピーカーで鳴らして、それをKORG MR2に録音してProtoolsに取り込んで作りました。サイン波の音は全部TRITONですね。

関口 「ASTROPERA」にしろこの「our melody」にしろ、中村君のギターと平本さんのトラックの相性がすごくいいよね。

平本 中村君のギターって音響的というか、エレクトロニクスサウンド的な響きをすごく感じる。一般的なギタリストが弾くギターとはひと味違って、響きが楽器的じゃないというか。

中村 多分アイリッシュのチューニングも関係しているんだと思います。開放弦をいっぱい鳴らすから倍音の関係とかもあるんじゃないかな。

関口 この曲を聴くともう1曲くらい中村君の歌う曲があってもいいかもしれないなと思うよね。「ASTROPERA」では最後にハモるけど、実質メインで歌う曲はこの曲だけじゃない?

あと、確かこの曲で全体のミックスの方向性が決まったんだよね。最初にミックスをしたらボーカルとアコースティック楽器がメインになって、エレクトロニクスがそれを支える感じになっちゃって、それだとのっぺりして音としてのパンチというか、個性や迫力みたいなものがなくなってしまった。で、エレクトロニクスの粒を前に出して、時には全体を占めるくらいの瞬間があるようにしたら結構いい音作りができたんだよ。

それで、この曲のミックスをリファレンスみたいにして、他の曲もミックスしていったよね。

平本 ここまではライブでやっているから、経験値がある分全体のイメージを共有してレコーディングできていますね。

5曲目「Time」について

平本 この曲はダブステップっぽい曲を作りたかったっていうのと、ライブとかで曲のループをいじって長めに演奏したりする曲が作りたいなと思って書いた曲ですね。TRITONで作った4つ打ちのディストーションで歪んだキックとシンバルを鳴らして、音数少ない中でも硬質さを出しています。

レコーディングは完全に丸投げして、「何かやってよ」とこれといったアイディアの提示もしないでメンバーに考えてもらいました。みんなに恨まれるとわかっていても、みんながどうするかなというのを見るのが楽しかったですね(笑)。

それと、この曲に関しては一度全員にそれぞれのレコーディングをしてもらって、その上で再度作曲をしている。だから、レコーディング素材をすべて使ってはいなく、容赦なく(笑)カットしたりもしているんです。例えば、サイレントチェロのアルペジオはレコーディングの時点では全編に入っていたけど必要な部分以外は使わなかったし、歌はKAOSS PAD3で加工したものを前半にのせたり、アコーディオンも間奏はカットしました。それぞれの楽器が曲のエッジになって欲しかったかので、レコーディングした状況と同じように存在する必要を感じなかったんです。

あと、ここで出てくる声は全部沙良ちゃんの声ですね、加工しまくっているけど。

中村 この曲だけアコーディオンを弾いていますけど、いつも弾くときと違ってできる限り機械的に弾くようにしていますね。曲的にループが多いので、そことのバランスは考えました。

吉田 この曲は最初に関口さんも中村さんもレコーディングしていない状態で聴いて歌を入れようとして、はじめて平本さんにイラッとした曲ですね(笑)。そのときはうまく行かなくて結局録らず、そのあと2人のレコーディング後の音を聴いたら行けるかもと思って。

関口 チェロはサイレントチェロですね。最後の最後で生チェロとサイレントを両方入れていますけど、基本はサイレントで。この曲のレコーディング前に「タワレコ新宿」のエレクトロニカコーナーに行って、ちょっと勉強したりしたんだよ(笑)。

全員 おおー(笑)まじめ!!

元木 ミックスはダンスっぽい感じにして、キックにサイドチェーンコンプをかけてちょっとダフトパンクのミックスを参考にしたりもしました。

関口 そして、最後の沙良ちゃんの笑い声がなかなかだよね。

6曲目「You and the Cello」について

平本 これはシャワーを浴びている途中で思いついた曲だね(笑)。ちょうど昨年の終わりにコンテンポラリーダンスの音楽を担当していて、公演当日に劇場に向かう前にシャワーを浴びていたんです。せっかくチェリストがいるバンドなので、チェロが歌詞に出てくるような曲があったら面白いなと思っていたときで。シャワー浴びながら鼻歌歌ったらこの曲ができました(笑)。慌てて体もろくに拭かずにピアノに向かってレコーダー回して。その鼻歌をほとんど変えずに曲にしたので、作曲は5分で終わったことになりますね(笑)。

ちょうど、その前に沙良ちゃんとミーティングをしていて、ビョークがカバーした「like someone in love」みたいなシンプルでクラシカルな曲があったらいいねと話したことも大きいですね。

曲としては、3人のレコーディングに街の音とストリングスを足しています。3人の生演奏はクリック無しでやったので結構揺れているんです。ストリングスパートは、録音に合わせて僕がVienna Instrumentのストリングスを手弾きして、それをmidiレコーディングして譜面にして、そこから関口君に細かくアレンジしてもらいました。

関口 録音に合わせて手弾きしているので譜面がメチャクチャだったんです(笑)。この曲はいずれ生のアンサンブルでやれればと話しているので、この際だからちゃんとした譜面を作ってしまおうと思って。結果的に第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの譜面を作りました。それでせっかくだからストリングスを生っぽくした方がいいと思って、第1ヴァイオリンだけを生演奏にすることを提案したんです。

元木 ストリングスだけソフトウェアだとどうしても3人の演奏との距離感が大きかったので、Vienna Instrumentで作ったストリングアンサンブルに生の第1ヴァイオリン2本をのせることにしました。ヴァイオリニストの田島華乃さんにお願いして第1ヴァイオリンを2テイク。おかげで自然なストリングアンサンブルに仕上げることができました。

吉田 生のヴァイオリンが入ったのはとても良かったですよね。

7曲目「addiction」について

吉田 これは私の持っているエロスをかき集めて1回で出した曲ですね(笑)。

平本 あはは。この曲は歌とピアノとエレクトロニクスがメインになる曲を作ろうと思ったのが発端ですね。個人的にはBlack Jazz Recordの影響なんですけど、そんな風には聴こえませんね(笑)。

ピアノの裏で鳴っているホワーンとしたパッドの音はピアノの音をableton liveで加工したものです。コンピュータで加工した音はそれくらいで残りのサウンドはほぼKORG TRITONとMS 2000で作りました。10年前にジョルジ・リゲティの影響を受けてシンセサイザーでクラスターを作ったりしていたんですが、そのときの技法を思い出して、3つくらいのクラスターサウンドをTRITONで作って、それの出し引きで中間部の盛り上がりを作っています。

逆に後半はエレクトロニクスをできる限り減らして、歌とリズム、ピアノ、チェロ、エレキだけでエッジをきかせました。

中村 アルバムの全体でのギターの存在感を意識して、この曲ではあまり前面には出てこないギターを弾いています。他の曲でガツンと出た分、この曲では抑えようと思いました。そういうバランスを考えてギターの録音をした曲の1つですね。

関口 そういう意味では、チェロもこの曲は抑えていますね。

吉田 どういう状況でこの曲を聴くんだろうって考えたときに、お金持ちの人がビルの最上階でワイン片手にバスローブで街の夜景を眺めているイメージが出てきて(笑)、絶対悪いこと考えているんだろうなみたいな。

全員 あははは!!

1 2 3 4 5 6 7