<日常の運転とレースでの運転>
平本 普段も運転されますか?
中嶋 しますね。
平本 どれくらいの割合で?
中嶋 ほぼ毎日に近いです。都内だと短い距離のことが多いですが。買い物に行ったりとか。
平本 そういう時は制限速度60キロ以内で走っているわけですよね。日常での運転とレースでのドライビングと、大きく違う感覚ってあるんですか? 例えば触覚とか。
中嶋 そうですね、触覚という部分はあまり変わりませんね。視覚の使い方は全然違います。レースを走っている時ってほとんど正面が少しだけが見えていればいい状況なので。
平本 レース中の視界ってどんな感じでしょうか。
中嶋 視界の中心(縦10センチ×横20センチくらいでしょうか)はクリアに見えていて、その外側、つまり自分に近いところはどうしても流れていってしまう。新幹線に乗ると、窓から近いところは早く流れて、遠いところはよく見えますよね。あれと同じ感覚です。だから、僕らは結構遠くを見て運転しているんです。
平本 どれくらい先を見ているんですか。
中嶋 そうだなあ、すごいときは400~500メートル先くらいまで見ているかもしれない。
平本 ちなみに視力はどれくらいですか?
中嶋 僕はコンタクトを入れて1.5か2.0位ですね。裸眼はあまりよくないです。
ブレーキを踏む場所ってコーナー手前100メートルくらいのところなんですが、ブレーキを踏むところを大分手前から見ているので、250メートルから300メートル先は常にずっと見ていると思います。
目線はすごく大事で、近くを見ていると自分が動いているスピードを速く感じてしまう。運転って面白くて、自分が見たところに自然と車が移動するんですよ。高速道路でイメージしてもらうとわかりやすいのですが、ずっと遠くを見ていると何もしなくてもまっすぐ走れるのですが、すぐ目の前を見ていると結構ふらふらしちゃうんです。
目の前でスピンしている車がいて、それを見ちゃうと本当にそっちの方に行っちゃうんです。
平本 そうなんですか!!
中嶋 見なければそっちには行かなくてすみます、不思議なもので。なんでと聞かれると困ってしまうのですが、そうなんです。
平本 そこが例えばレース中に危険な場所だとしても?
中嶋 見ちゃうと行っちゃいますね。
平本 じゃあ、他の車がクラッシュして、やばいって思っていても、見ちゃったらそっちに?
中嶋 レーシングカーってハンドルをミリ単位で動かしているんです。だから視線がある方向に行くとそれだけで自然に体も動いてしまう。その結果、そちらの方向に行ってしまうんです。あと、そっちを見ちゃったことでブレーキを踏まなくては行けない場所を過ぎてしまって、止まれなくなるということもあります。
視覚も影響しますが、音は一番影響されます。今僕が普段乗っている車はハイブリッドなんですが、モーターだけで走っていると音もないし、走りのリズムに対して音が影響してこない。今の車は、ミッションもCVTといってレーシングカーとは違って、ギアによって音が高くなったり低くなったりということがあまりなくて、アクセルを踏めばエンジン音があがって、緩めれば低速になるということを勝手にやってくれるんです。だから、リズムを作るために音に頼っていた要素が少なくなっている。物足りないといえば物足りない気もするのは今の普通車の状況ではあると思うんです。
普段とレースと、ハンドルを切れば車がどう動くかという基本は同じですが、そこに楽しみを求めることが出来ない環境があるので、割り切らないといけない部分です。
平本 どっちも一緒になっちゃったらね。
中嶋 そうですね。でも運転自体は好きですね。
平本 今回、対談場所で品川を選ばれましたが、品川の印象はいかがですか?
中嶋 僕はもともと出身は愛知県で、母親が東京出身という以外はあまり接点がないんです。そんな中、割といつも縁があるのが品川です。中学の修学旅行で泊まったホテルが品川だったり、東京に遊びに来る時に新幹線を降りたりと、品川が僕の中で東京の玄関口というイメージがあるんです。仕事をしている今も僕の場合は、飛行機に乗るにしても、新幹線に乗るにしても品川を通って行くので。
品川駅を歩いているとオフィス街だから出勤する人、退社する人がいて、人が通る場所、人の流れがある場所というイメージがありますね。
平本 品川ってここから色々なところに行けますよね。南にも北にも。
中嶋 自分は東京への縁が薄かったからこそ、品川がすごく近く感じてしまうのかもしれません。
平本 今日の対談場所はホテルの中ですが、品川とは思えないくらい静かな景色があって。
中嶋 中学校の修学旅行も確かプリンスに泊まったはずですけど、どれだったかな。
平本 そのときここは来ました?
中嶋 ここは来てないですけど、品川駅の高輪口はよく覚えています。
平本 まあ中学生の時に庭園見てもあまり響かないかもしれませんしね(笑)。
中嶋 この年になって漸くという感じですよね(笑)。
平本 そういう意味では大人になったなと思いますね。
中嶋 大分違いますよね、昔と。
小学校のときの修学旅行は京都だったんですけど、小学生で京都行っても何も面白くなかった。今行くとすごくいいですね。
平本 あのときは何も分からないですよね。金閣寺が金ぴかだった位の印象で(笑)。