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東京を巡る対談 月一更新

駒井知会(弁護士)×平本正宏 対談 人の人生を変えていく為の難民支援

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<映画音楽の世界>

駒井 あともうひと作品、平本さんが音楽と演奏を担当されている『セトウツミ』を見せていただきました。堺の町で、男子高校生2人が川辺に座って、延々と関西弁で話し続ける中で、シュールな笑いを生んでいく作品ですが、そこに、敢えてタンゴの音楽をぶつけようと思ったのは、どうしてですか?

平本 タンゴは、大森監督からの依頼なんです。セトウツミのプロデューサーから作曲依頼の電話が来まして、その内容が「大森監督がタンゴを作って欲しいと言っているのだけど、作れますか?」と言うものでした。

この時点では、原作とタンゴという情報しかなく、後日ミーティングしてもまだ撮影前なので映像の情報が全くない状態。タンゴは作れますが、本当に映画にタンゴが合うかどうかは、僕だけでなく大森監督も定かではないので、撮影終了後の1回目の映像編集を待ちました。

その映像を見たら、これはタンゴとか、フラメンコとか、ワルツ以外はあり得ないなと思いました。映画には何気ない高校生の日常”しか”映っていないので、彼らに寄り添った音楽を書いたら途端に映画がつまらなくなるんです。なんというか、よくない感情移入が起きて、映画そのものの面白さと遠ざかってしまう気がする。だから、彼らの日常とは関係ない音楽、でも彼らの心の中を映し出している音楽を書かないとと思い、タンゴを書くことにしました。

駒井 そもそも、ごめんなさい。タンゴって、アルゼンチン生まれの音楽ですよね?で、コンチネンタル・タンゴってのは、ヨーロッパで生まれて…。平本さんのタンゴは、タンゴのどの系譜を意識しているんですか?

平本 もちろんアルゼンチンタンゴです。アルゼンチンがタンゴの発祥の地ですが、そこから楽器やリズムのバリエーションを増やしムード音楽的なコンチネンタルタンゴが生まれます(諸説ありますが)。情熱感、哀愁、力強さ、それはアルゼンチンタンゴが魅せてくれる大きな要素で、それらが作り出す響きは「セトウツミ」に合うと思いました。あと、アルゼンチンタンゴの、バンドネオン(映画ではいい演奏者を知っているアコーディオンを使用しました)、ヴァイオリン、コントラバス、ピアノというシンプルな編成を気に入っていたのも大きいですね。

駒井 平本さんの音楽が、瀬戸と内海の関係性や、場の雰囲気を象徴するような場面もあったように思うのですが…監督さんと相談しながら曲作りを進めていらしたのですか?

平本 基本的にはタンゴという指定があった以外は任せてもらいました。メインテーマ以外は結構すぐ出来たんです。セトウツミは小曲を抜くと、全部で3つのメロディがあるのですが、2つは1日で出来ました。でもメインテーマがどうしても出来ない(笑)。

オープニングからメインテーマが流れるので、観客の心をぐっと掴めるものでないといけないですし、1話終わるごとに流れるので、何度聴いてもいいものでなくてはいけない。しかも、一番大切なのは、瀬戸と内海という二人の登場人物と芯の部分で繋がっていることです。

映画の中での、瀬戸と内海はエネルギーがすごいんですね。菅田将暉さん、池松壮亮さんを軸として、大森組がパワーを注いでいるので、川べりで話しているだけですが、輝きを強く感じます。その輝きと呼応するような、3人目の主人公になるような曲が必要だと思いました。何度も作ってはボツにし、レコーディング前ギリギリであのメロディを思いつきました。思いつくと早いので、1時間くらいで完成しましたが、ホッとしたのを覚えています。映画が公開になり、音楽も楽しんでくれたお客さんが多いようで嬉しいですね。

駒井 映画の冒頭から、ズガーンって、平本さんの音楽が鳴り響いて、日本の川や町や、堺の風景が、なんか、南米かヨーロッパのように一瞬思えて、めちゃめちゃ新鮮だったのですが…。ピアノも、冒頭に近いところで小気味よく耳に入ってきたのですが、演奏家としては、どのようなことに意を用いられたのですか?

平本 ありがとうございます。ドナウ川ではなく、淀川ですが(笑)今回はタンゴとしていい曲にしたかったので、タンゴ的なピアノの演奏を心がけました。打楽器的なアタックとリズム感、あとは忍び寄る哀愁が出ればと思って演奏しています。他の演奏家にも「情熱的に」とお願いしているので、演奏家皆、気持ちはタンゴの楽団ですね。

駒井 今後も、映画音楽を作っていかれる御予定でしょうか?

平本 映画音楽はもちろん作っていきたいと思っています。監督とのやり取りは刺激的ですし、何より自分が普段の音楽活動の中で作らないような曲を依頼されるのが楽しくてしようがないです。そもそも映画が好きで子供の頃から沢山見ていますし、観客として楽しむ以外にも音楽をはじめ様々な表現を勉強できる場だと思っています、20世紀の総合芸術ですから。

ただ、映画音楽は、あくまで自分が作る音楽のうちの1ジャンルに過ぎないと思っているので、映画音楽に焦点を絞った活動をしようとはあまり思わないんですね。やっぱり映画は監督の作品ですし。作曲家なので、出来る限り色々な面白い仕事をしたいと思っています。オペラはまだ始めたばかり、ダンスや舞台作品は最近あまりやっていませんし、美術作品(インスタレーション作品)として音楽を発表したことはまだないので何か計画したい。コンサートやライブ活動も今年の後半からまた始めて行きたいですし、そのための新しいアイディアもいま出てきています。いつもやりたいことが沢山あるので、それを片っ端から消化したい思いでいっぱいです。

映画音楽はそのうちの大きな一つですね。

駒井 平本さんの、多様な音楽分野における、これからの大活躍が、ますます楽しみです。

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