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東京を巡る対談 月一更新

幸村誠(漫画家)×平本正宏 対談 『2001年宇宙の旅』から12年経って

<回収できずに増え続ける宇宙ゴミ>

平本 僕はデブリの存在は『プラネテス』で知ったんです。『プラネテス』の舞台は2075年頃ですから、いまから考えてもかなりの量のゴミが宇宙空間を漂っているんだろうと想像して、宇宙の見方がまた一つ変わった気がしたんです。宇宙を扱った作品は映画にしても小説にしても、対宇宙であったり、そこに立ち向かう人間の物語で、人間の住む宇宙に焦点があまり当たっていない。人間が住むということは、その場が汚れることだったり、そこから別の問題が派生することであったりするわけで、決して見栄えのいいストーリーばかりではなくなります。『プラネテス』には、宇宙で人間が生きるということがどういうことかを考えさせられました。

幸村 そうですね。まず、ゴミは増える一方でしょうね。かつてこの問題がドナルド・ケスラーに提唱されて以来、ゴミが減るなんてことはなく、増え続けるのみでしょうね。現在は、現状維持が精一杯、打つ手が無いという状態です。宇宙にゴミを出してしまったら回収はできない。やろうと思えばできることではあるんですが、それには大変なお金がかかる。いま宇宙に出かけるだけで精一杯ですから、ゴミ拾いの暇はないんですね。ですので、ゴミが出そうになったらなんとか軌道速度を落として、大気圏に落とすしかない。

平本 漫画の中でもその様子が描かれている部分がありますね。

幸村 そうですね。でも、そうはいっても限度がある。コントロールを離れたゴミはただただ飛び回っているだけですから、これから深刻になるであろうことは静止軌道ですね。35,000キロくらい地球から離れた場所にある軌道で、そこに衛星を置くと衛星の地球一周がちょうど24時間になるんです。つまり地球の自転と一緒なので、常に地球のある一点の上空に留まっていられる。非常にこの軌道は有用で何にでも使える、気象衛星でも軍事衛星でも。そうなると、ここが混んでしまう。みんなここに色々なものを置くので。

平本 そうですね。使い勝手がとてもいいわけですから。


幸村 ところが、ここが地球から離れ過ぎていて使い終わった後の回収ができない。置くのはいいけど、拾えないんです。近軌道に比べて直径が大きいので、今はまだそれほど問題になっていませんが、回収ができないとなると今後必ずデブリと衛星の衝突が起きます。

平本 そういう意味で、『プラネテス』は今後の宇宙事業の大きな参考資料になりますよね。現在、もうすでにNASAや国内外の宇宙事業から注目されていたりするのですか?

幸村 大した役割を担っているわけではありませんが、ただ、この間嬉しいことにジャパン宇宙フォーラムという催し物がありまして、国際的な宇宙研究フォーラムなんですが、主な議題はスペースデブリなんです。国際協力の下にスペースデブリ問題をみんなで考えていきましょうと。もう論文や雑誌でしか見たことのない方々がいる中にお呼ばれしまして、講義をしてくれないかと!

平本 おおー、すごいですね!

幸村 壇上で私がしゃべっていくことを逐一英訳されていくという(笑)。今年の2月にして参りました。

平本 資料や映像はネット上にアップされていたりしますか?

幸村 多分ありますね。アメリカ戦略宇宙軍の少将が来ていたりですね、ええーっという感じです(笑)。

平本 その人も幸村さんのお話をメモとられたりするわけですよね。

幸村 なんかスナックを食べながら聞いていました、小腹が空いていたみたいです(笑)。

平本 そういうところに呼ばれるということは、確実に『プラネテス』が国際的に評価されているということですね。

幸村 このスペースデブリという問題に最初に携わったドナルド・ケスラー氏、ケスラーシンドロームという現象の名前の由来になった人ですけど。ケスラー氏にもその場でお会いすることができました。デブリ問題はこの人抜きには語れないというその人に、『プラネテス』を見ていると言って頂いたんです。アニメーションを見てくださったみたいで、非常に正確な科学考証に基づいて描かれていて、こういう風なものを作ってくださると自分としては嬉しいとお言葉頂きまして。アニメの方には僕自身はノータッチですので、代わりに感謝の言葉をお伝えしました。

平本 漫画は英訳されていないのですか? ぜひ漫画をケスラー氏に読んで頂きたいですよね。

幸村 そうですね、いつかは。ケスラー氏のご本を頂いたので、私からも1冊プレゼントさせて頂いたんです。

平本 いいですね。今後も『プラネテス』の影響は続いていきそうですね。

幸村 そうですね、続いていってくれると嬉しいですが。たまに宇宙のイベントがあると急に単行本が出たりはしますね。あはは。例えば、流星群や中国の宇宙空間での実験、イプシロンの発射など、そういったタイミングで。


平本 なるほど。『プラネテス』の次は現在連載中の『ヴィンランド・サガ』を執筆されていますが、宇宙ものを『プラネテス』後も続けようとは思わなかったのですか?

幸村 そうですね、『プラネテス』が終わったら歴史もの、ヴァイキングの話をやりたいと思っていましたので。

平本 そうなんですか。『プラネテス』は連載スタートの段階で4巻くらいで終わるというのが目安としてあったのですか?

幸村 実は、最初の1話だけ掲載が決まっていたんです。

平本 えっ、そうなんですか!

幸村 ええ、僕読み切りとして1話それだけを描くつもりで描いたんですけど、ありがたくも続けさせて頂くことになり、描けば載せるよと担当さんに言って頂けたんです。だから、ネタがなくても続けますと伝えて(笑)。

その頃21歳で、何一つ漫画界に影響もありませんでしたので、掲載してもらえるだけでありがたいんです、雑誌に。だから第1話が載って喜んでいたら、続けてくれと、しかもカラーを描いてくれと言って頂き。かなりカラーページを書いた記憶があります。毎話のようにカラーページがありました。ずぶの新人、何の実力も担保するものもない小僧に、カラーページと連載枠をくれたんですよ、おかしな担当さんだなと思いました(笑)。

平本 でもそれは確実に面白いからですよね。第1話を読んだときに僕は心をガシッと掴まれましたので。まさか読み切りとして掲載されたとは思いもしませんでした。読み切りとして第1話を読んだら、僕が担当だったとしても絶対に続きを幸村さんに描かせます、もちろんカラーで(笑)。

幸村 正直なところを申しますと、本当に自分でこれ売れると思っていなかったので。まだ全然何がいい、悪いということの判断もつかないまま、ただただできることをやっていただけなので、本が出るだけでありがたい、それだけでした。でも、そうやっていたらこうして平本さんが読んでくださってお会いできて、だから、やっぱり形に残るものを作っておいて損はないんですね。

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